(男鹿と古市・死神パロ)



「おい古市、俺今日はコロッケ……」

「うひゃあぁあああ?!」

「……どした」

「なっ、なんでもねー!おっ、おまえこそっ、なんだよ!」

「いや、コロッケ食いてーから後で買いに行こうぜって」

「コ、コロッケね。つーか、死神って腹減らないって言ってたじゃん」

「腹は減らねーけど食っても死なねーんだよ」

「なんだそれ。と、とにかく出てけバーカ!」

不審な顔をする男鹿を追い出して、盛大にため息を吐く。古市貴之16歳。本当に、ほんとーに、困ったことになりました。

あの日の帰り道、おれって男鹿のこと好きなのかもと自覚したあの日から、男鹿をまともに見れなくなった。体中傷だらけだから男鹿が薬を塗ってくれようとするんだけど全部断っている。いまそんなことされたら、正気でいられる気がしない。

そもそも、おれは本当に男鹿のことが好きなのか。でも、もし、好きなんだとしたら、男鹿にお礼を決めてほしくないって思った気持ちにも説明がつく。あいつのこと考える度に速くなる鼓動も、熱くなる顔も、全部。

「……はあー……」

うなだれる。おかげで毎日どきどきしっぱなしで、心臓に悪い。なんでよりによって男鹿なんだ。だってあいつは男で、

(……あ)

大事なことを忘れていた。ゆっくり顔を上げて、男鹿が出て行ったドアを見る。あいつは男で、それから。

「しにがみ……」

あいつは、人間ですらないのだ。



「ちょっと」

部屋を出た瞬間服を捕まれる。小柄の女子、えーと、古市の妹。

「このか?」

「ほのか。……ちょっと、話あるから、来て」

引きずられるようにして連れて来られたのはほのかの部屋だった。古市の部屋と作りは変わらないが、ぬいぐるみだとか可愛らしい小物に溢れている。ほのかは勉強机の椅子に座ると、俺に床に座るよう指示した。やっぱムカつく。

「なんだよ、話って」

「……お兄ちゃんのことなんだけど」

いやに思い詰めた顔で切り出す。お兄ちゃん、というと古市だな。

「お兄ちゃん、ね、私たちに隠し事、たくさんしてるの。昔からそう。私や、お父さんやお母さんに心配かけないように、いろんな問題を抱え込んで、ひとりで苦しんでる」

多分、古市がいじめられてたことに家族は気づいていたんだな、と悟る。あいつの無理矢理の笑顔は、それくらい痛々しい。

「この前も、ぼろぼろで帰って来たけど何も言わないし。大丈夫大丈夫、って笑うの。お兄ちゃん、ほんとにバカだしキモいけど、でも、……私のお兄ちゃんなの」

「あー……つまり?」

「っお兄ちゃんに危険な真似させないでって言ってるの!あんただって、なんでこの家にいるのかわかんないし、お兄ちゃんは秘密にしろって言うし……もう、わかんないよ。お兄ちゃんがぼろぼろになったのも、あんたが関係してるんでしょ。そうとしか思えない。もうお兄ちゃんを、これ以上危ない目に合わせないでよ!」

声が震えている。でも、泣かない。古市に似ているな、とふと思った。

「……あのな、ほのか。貴様はひとつ勘違いしてる」

「っ、はぁ……?」

「あいつがぼろぼろになったのは弱いからじゃねえ、強くなろうとしたからだ」

「……」

「あいつは、自分で殻を破ろうとした。今まで逃げてたことに全力でぶつかった。だから、ぼろぼろになった。それをおまえは否定すんのかよ?あいつが自分で決めたことを、なんで第三者が否定出来んだ」

ほのかは何かに堪えるように拳を握る。けれど視線は外さない。まっすぐに俺を見て来る。良い目だった。

「あいつはおまえに隠し事をしたいんじゃなくて、ただ心配かけたくねーだけだよ。そんなに不安がらなくても、あいつは急に消えたりしない」

「わ、私は別にそんな……」

「それに、安心しろ」

立ち上がり、ほのかの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。いつかの古市を思い出す。

「ちょっ、何すんのよ!」

「俺が守ってやる」

「、え……」

「あいつを傷つけるもの全部から、俺が守る。だから、心配すんな。あいつが何でも抱え込むのはわかった。でも、今はもうひとりじゃねえ。俺が一緒にいる。ずっとな」

「……」

ほのかのくりくりした目がびっくりしたように見開かれる。それから、細く歪む。

「……なにそれっ、気持ち悪っ」

「なっ、今のは感動するとこだろ!」

「でも、ありがと」

白く小さい手が俺の腕に触れる。布越しでも震えているのがわかった。

「お兄ちゃんのこと、……よろしくね」

ぽろり、と雫が滑る。俺は動くことも出来ず、ただその雫を数えていた。



「男鹿、コロッケ買いに……ってうわああっ!」

突然抱き着かれて後ろに倒れる。やばい、やばいやばい!心臓が有り得ないほど脈打って、あー、おれ絶対早死にするわ。

「おまえ、もうちょっと家族に甘えろよ」

「え、はっ?!何の話だよっ!つ、つーか離れろ!」

「一生守ってやるからな」

「……はあっ?!」

小さい子にするように頭をぽんぽんとされ、何がなんだかわからないうちに男鹿はおれの上から飛びのいて「コロッケコロッケ!」とか言いながら下に下りて行ってしまった。残されたおれはひとり廊下で仰向けなわけで。

「な、なんなんだ、一体……」

それから、「一生守ってやる」という言葉をかみ砕く。何が、何が一生だ。

お礼が決まったら死神の世界に帰るくせに。

「……うそつき」

うそつき。言葉にするとひどく痛くて、目を閉じた。









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