(男鹿と古市・死神パロ)



「おまえってさ、医者志望かなんかなのか?」

とりあえず学校に向かったおれは、昼休みまで男鹿を待たせて二人で屋上に向かった。端から見れば一人で飯食ってるように見えるんだろうが、屋上の鍵を持っているのはおれだけなので関係ない。それに、人の目を気にするのは面倒だ。

死神は腹が減らないそうなので、遠慮なく今朝ほのかが持たせてくれた弁当の蓋を開ける。卵焼きが五個入っていた。多くね?好きだからいいけど。

「いや、違うけど。なんで?」

「二回とも、誰かを助けようとしてたから」

卵焼きを頬張りながら、男鹿を見る。男鹿はおれを変だと言うが、男鹿も充分変だと思う。だって死神って、こんな身近にいていいのか。まあおれがいろって言ったわけだけども。

「一回目は助けてねーよ、おまえがあそこにいなかったら、多分おれも見て見ぬふりしてたし」

「いや、嘘だな。そんなやつが、あんなふうに何の抵抗もなく猫の死骸を拾い上げるはずがねえ」

「嘘、とか言われても。マジだし」

誰もが避けて通っていたところにひとり踏み込んでいく勇気はない。結局おれは情けないし、どうしようもない負け犬根性を持った人種だ。

「猫なんてよく死んでるし、いちいち構ってられねーよ。あんときはおまえのこと人間だと思ってたし、なら手貸そっかなー……って程度だし。そんな、大それたことじゃ」

「おまえ優しいな」

「……人の話聞いてた?優しいとかじゃないよ、……そういうのじゃない」

おれは優しくなんかない。どうしようもない駄目なやつである。三つめの卵焼きを咀嚼する。本当に優しいやつなら、人の目を気にしたりしないし世界から逃げ回ったりしない。おれはいつだって世界から逃げたいと思っているし、面倒なことには関わりたくないし、くだらない自分とおさらばしたいと思っている。何一つ実現したことはないけれど。

男鹿が不思議そうな顔でこっちを見てきたので、ごまかすように飯を掻き込む。

「ま、普通ってことだよ、フツー。もっといい人間は他にもいっぱいいるぜ?」

「他のやつの話なんかしてねーだろ、いまは古市と話してる」

どきりとする。その言い方は、ナイ。ナンパかよ、死神のくせに。と言いたくなったがやめておいた。

「おまえが言ったんだろ、よくわかんねーことより、自分が見たり聞いたりしたことを信じるって。俺は今まで見た古市が優しいと思ったから、それを信じる。なんかおまえ、いろいろ隠してるっぽいけどあんとき死んだ猫を埋めたのはおまえだし死にかけのオッサン助けようとしたのもおまえだろ。だから優しい。おまえの自己評価なんて知るか」

死神のくせに、なに良いこと言ってんだ。と言いたくなった。けど、今度は言えなかった。どうしようもなく目頭が熱くなった。男鹿の視線に耐え切れなくなって俯く。なに、何なの。死神のくせに。

「聞いてんのかふる……古市?!」

「うっせバカ見んなバカ」

ぱたぱたと落ちる涙がコンクリートの色を変える。やばいと思いながらも止められなかった。そんなこと言われたことなかったから。おれのことちゃんと見てくれる人なんて、いままで誰も。

「え、ちょ、泣き止めよ、俺が泣かしてるみたいだろーが!」

「誰にも見えないんじゃねーのかよ」

「いやまあそうだけど!なんつーか、居心地悪いだろ!」

「ぷっ、死神に居心地良いも悪いもねーだろっ」

思わず噴き出して、笑う。涙も止まらないし、笑いも止まらない。なんだこれ、意味わかんねえ。でも、これだけ笑うのも、泣くのも、久しぶりだった。

死神のくせに。本当に優しいのは、男鹿の方なんじゃなかろうか。狂ったようなおれをどう扱えばいいかわからずうろたえているのがおもしろくて、また、笑った。









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