(男鹿と古市・死神パロ)
「これでよし、と」
こんもり盛り上がった土をぽん、と叩き、最初に拾っておいた大きめの石をその上に置いて手を合わせる。小さいけれど、こういうのは気持ちの問題と昔祖母が言っていたような気がする。
後ろを振り返ると、さっきの青年はじっとりとした目でこっちを見ていた。さっきのような感覚は生まれない。ていうか、むしろなんか腹立つぞ、こいつ。
「おまえも手ぐらい合わせろよ、さっき撫でてたあの優しさはどこいったんだよ」
「うるせー」
「えっなんでちょっとキレてんの意味わかんないんですけど」
しかも、近くで見るとおれと大して歳も変わらないようだった。喪服みたいな真っ黒いスーツのせいで大人びて見えていただけのようだ。いやまあ、おれも一応学ラン着てるから真っ黒といや真っ黒なんだけどさ。ブレザー効果っつーのはすごいね。
「……つうか、きたねーとか思わねえのかよ」
「え、は?なにが?」
のそのそ近づいてきて隣にしゃがんだそいつは、頭をかきながらそう聞いてきた。汚い?何の話っすか。
「その、猫。平気そうに拾い上げたから」
もう埋まってしまった黒い猫を指差す。いやいや、おれが抱き抱える前からあんた撫でてたじゃん。
「あー、別に。逆に聞くけど、なんで汚いんだよ。死んだらゴミになるわけじゃあるまいし」
「……まあ、そうだけど。さっきも、おまえ以外はみんな避けて通ってたじゃねえか」
「おれだけじゃねーよ。おまえもじゃん」
視線がかち合う。一瞬、目眩がした。瞳の奥まで真っ黒で、どこまでも澄んだ漆黒の闇。澄んだ闇、なんておかしな例えだろうけど。
それから、そいつはふっと笑った。あ、笑ったところ初めて見た、とか思うひまもなく、「おまえ、変だな」と憎まれ口を叩いてきやがったので、「おまえも充分変だよ!」と言い返そうとした、けれど、それは叶わず。
「……あ、れ?」
男は、跡形もなく消えていた。ただ、烏のような黒い羽が一枚、ひらりと残されていた。