(男鹿と古市・死神パロ)



そうね、じゃあ、昔話をしてあげましょう。あれは、今からずーっと前、おばあちゃんが、まだおまえたちくらい幼かったころのお話。……懐かしいねえ、あの頃はまだ、ほんとうに幼かったから。


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猫が死んでいた。暖かい、春の陽気の中、一匹の黒い猫が横断歩道の真ん中に横たわって死んでいた。きっと車に轢かれたんだろう、四肢はおかしな方向に曲がり、お腹の辺りから何かが飛び出している。信号が変わるのを待つ間、それを目にした人々は「かわいそう」だの「気持ち悪い」だのと小さな声で呟いている。おれは、ただじっと見ていた。黒い猫と、その隣に佇む、真っ黒な青年を。

信号が青になる。雑踏が押し寄せる、ただし、黒い猫と青年を避けて。面白いくらいぽっかりとあいた空間で、おれは足を止めた。後ろから舌打ちが聞こえる。青年は、黒い髪、黒いスーツ、黒い手袋で、無表情のまま猫を見ている。周りなど目に入っていないように。やがて、そのまますっと膝を付くと、手袋を外して猫に触れる。その手つきがやけに優しく、まるで愛しいものに触れるかのようだったので、見てはいけないものを見ているような気がして唾を飲む。綺麗だ、と思った。

信号が点滅する。青年は動かない。もちろん猫も。そしてなぜかおれも、動けなかった。必死で唇を動かし、言葉を紡ぐ。

「それ、埋めるの、手伝いましょうか」

ぱ、と青年が顔を上げる。絡む視線。心臓がひやりと冷える。心底驚いたような表情で、青年はおれを見る。おれも、青年を見る。否、見るしかなかった。視線が離せなかったのだ。絡み付いたそれは自分の意図で外すことが出来ず、侵食され、朽ちる。

「……俺に言ってんのか?」

「えっ、あ、まあ、この距離であなた以外に言ってるとしたら、それはそれで変な人っていうか」

「俺が見えるのか?」

「え?」

車のクラクションが鳴らされ、我に返る。信号はとっくに赤だった。

「やばっ、と、とにかく公園行きましょ、ねっ!」

「は、あ?」

黒猫を抱き抱え、空いた手で青年の服を引っ張る。「待て、」とか聞こえた気がするが気にしない。やたらと早鐘を鳴らす鼓動に任せて、公園まで走った。その衝動がなんなのか、おれにもよくわからなかった。









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