(アラジンとジャーファル)
「ころすのかい」
屈んだまま後ろを振り返ると、アラジンがこちらを見ていた。まだ朝早くだというのに、うまく寝付けなかったのだろうか。
「アラジン、まだ起きるには早いでしょう。眠れないのなら、私が子守唄でも」
「殺すのかい?」
アラジンの視線はまっすぐ私の手元に向いていた。私も視線を落とす。私の手の中で、小さくなって震える小鳥。恐らく他の大きな鳥に襲われたのだろう。放っておいても、いずれ死ぬ。
「かわいそうだね」
いつの間にかすぐそばにしゃがみ込んでいたアラジンが、ポツリとそう言う。正直以外だった。彼が死に対してそんな感情を持っていたとは。
「ええ、でもアラジン、死んだ魂はルフとなって、世界を廻るのでしょう?だからかわいそうではありませんよ。恐れることはありません」
「だから、殺してしまうのかい?」
まっすぐこちらを見つめる瞳はマギだった。私はすこしだけ頭痛を覚えて、目を閉じる。
「ジャーファルおにいさん、僕がかわいそうと言ったのは、この小鳥が死んでしまうことではないよ。死は悲しいけれど、いつか巡ってきてしまうものなんだ。だから、寂しい言い方になるけれど、仕方がない。かわいそうなのは、ジャーファルおにいさんさ」
「……これはまた、」
随分な物言いだね、と言っても、彼は笑いもしなかった。ただただ真摯に見つめて来る。
「アラジン、よく聞いて。小鳥はね、怪我をしてしまってはもう意味がないんだ。同じ親が産んで同じ巣の中にいても、ほんの少し大きさや色が違うだけで親鳥に餌を与えてもらえないこともある。逆に、まったく違う種なのに、愛されて育つこともある。それはすべて運命なんだ。生まれたときから決まっている。だから小鳥は、必死なんだ。一羽では生きていけないから、親鳥に気に入られるためにね。なのに、巣から落とされて、怪我までして、もうこの子はいらない子なんだ。居ても居なくても同じ子。だから、せめて殺してあげよう。このまま苦しんで死ぬのはかわいそうだから、殺してあげよう」
小鳥の喉元を親指で押す。ピィ、と力無い鳴き声が浮かび、私はもう少し力を込める。
アラジンはそれを止めようとしなかった。ただまっすぐに私を見ていた。小鳥が暴れる。なぜか自分の息も細くなっていく気がした。苦しいかい。苦しいかい。私も苦しいよ。私も、苦しい。そして恐ろしい。
「おにいさんは、いつかこんな日が来ると、本気で思っているのかい」
ああアラジン、思っているよ。私は大変うたぐり深い性格だからね。自分を信じたことなど一度もないよ。終息までを、指折り数えているほどに。
「その中に、共に生きるという選択肢はないのかい?」
私は笑う。鳴き声はいつしか止まっていた。
終りまであと
(あと、どのくらい?)
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アラジンとちょっと怖いジャーファルさん。このふたりはあんまり仲良くないといいぞ、嫌いとかじゃなくて苦手だったらいい。ほんと罪な男だぜシンドバッドよ〜