(若シンと子ジャ)



この命は、あなたのためにあるのだと、そう思ってきた。そしてそれは真実であった。あなたのために生きて、死ぬことが、わたしの使命であった。


「おや、今日は早いな」

扉の向こうで仕事をこなす主は、こちらに気づくとにこやかに微笑んだ。入るか否か戸惑っていると、慈愛に満ちた瞳で手招きをする。恐る恐る部屋に入ると香の匂いが肺を満たし、ほんのすこし噎せる。

「ああ悪かった、匂いがきついかな?」

首を横に振り、大丈夫だと意思表示をする。優しい主に似つかわぬ物物しい椅子の横に腰を下ろすと、主はまた笑った。

「また、そんなところでいいのかい?おまえ用の椅子があるんだよ」

わたしのようなものが椅子に座って主と同じ目線を得るなんて、おこがましい。わたしなどは、あなたの足元でうずくまっているのが丁度いいのです。この命はあなたのおかげでここにあるのですから。

何も言わないでいると、主の手がふわりとわたしの頭に触れた。びっくりして体を硬直させると、そのまま浮遊感に襲われる。

「っ、わ」

「ほらジャーファル、こうすれば問題ないだろう?」

持ち上げられた体は主の膝の上に着地した。慌てて体をよじると太陽のようなそのひとがそこにいて、思わず目を閉じる。眩しい。と、半ば本気で思った。

「にしても軽いな……ちゃんと飯は食っているか?」

優しい手つきで髪を梳かれる。完全に動けなくなって、じっと自らの指先を見つめるしかできない。何人ものひとを殺めてきたこの両手。ぼろぼろの、ちっぽけな両手。

「……あなた、は、こわくないんですか」

「何がだ?」

「おれの、こと」

「こわくないよ」

「きみわるがったり、」

「おまえはこんなにも愛らしい」

「ど、どうぐ、みたいに」

「するものか」

「……だれかを、ころしたり」

「させない。もう二度と、おまえにそんな真似はさせない」

「……」

「ジャーファル、何に怯えているのかはわからないが、俺はおまえと出会えてよかったと思っているよ。おまえが生きていて、俺を選んでくれて、よかったと思っているよ」

あなたが救ってくれた命。あなたが与えてくれたこれからの人生。わたしは、それをあなたのために使おう。あなたがいなくてはわたしは死んだも同然だった。だから、わたしはあなたのために生きよう。生きていていいのだと、そう言ってくれたあなたのために。

主の腕を掴んで、声を噛み殺して泣いた。それはまるで息もできないほどの幸福感に揉まれているようだった。





息をするならあなたとがいい
(あなたと共に生きることを許してください)



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お題は 花洩 様からいただきました。
これはだいぶほだされたあとですが、もっとツンツンしてる子ジャも書きたいです。若シン子ジャは正義。卑屈なジャーファルさんはキングオブネガティブ眉毛に勝てるのか…眉毛とジャーファルは「自分は絶対に愛されない」と思い込んでいるところが似ているなあ、と思います。ジャーファルさんはシンがすべてを与えてくれたから、自分のすべてはシンのものだけどシンはすこしも自分のものにはならないと思い込んでると思うのです。それが悔しいシン。がんばれ



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