(佐藤と鈴木)



叶わない恋をしている。叶うはずがないと知っている。叶える気もない。それでも好きで居続けることはそんなにもおかしいことだろうか。


「またなんかあったの?」

「……」

雨の中、傘も差さずにうちにやってきた鈴木はいつものような不機嫌な顔ではなく、いやきっとみんなが見れば同じなんだろうけど、俺から見れば落ち込んでいるのがすぐわかった。死んだ目をした鈴木を笑顔で家に入れてやる。虎太郎が驚いてタオルをたくさん持ってきた。

部屋に通すと途端に鈴木は崩れ落ちた。普段気丈に振る舞ってる分、やっぱり深いところは脆いんだと思う。そんな鈴木を見る度、俺はなんとも言えない気持ちでいっぱいになる。泣かないで、って優しく接してあげればいいだけなのに、それができない。優越感にも似た感情が先走って、俺の体を置いていくのだ。

「……平介だよね?」

「あいつは悪くない」

「わかってるよ。だって鈴木が勝手に好きでいるだけだものね」

「っ、」

また、そうやって、露骨に傷ついたって顔をする。だから、虐めてしまう。鈴木を傷つけられるのは俺だけだって何度も確かめてしまう。

けれど、本当は違うのだ。傷つける言葉を吐けるのは俺だけかもしれないけど、傷つく刃を持っているのは平介で、俺はその背中を押したり引いたりしているだけなのだ。それをする度、自分も傷ついてしまうことを知っているのに。

それでも、やめられない。鈴木はバカだから、俺が背中を押していることを知らない。だからこうやって平気でうちにやってくる。飛んで火に入る夏の虫、ってやつ。かわいそうな鈴木。

本当に好きなのは平介のくせに、二度と変わらないくせに、俺が優しくするからってこうして自分が傷ついたら逃げて来る。かわいそうで、狡い鈴木。そんな鈴木が好きな俺。一番かわいそうなのは、きっと巻き込まれた平介。

「別に、叶わなくていい」

「ほんとに?」

「嘘なんか言わない」

「ほんとに?じゃあ鈴木は、平介の隣を誰かが歩いてても平気なの?」

「そ、れは」

「平介がほかの女の人とキスしたりセックスしたりするのを想像して、正気でいられるの?」

「っ、やめ、ろ」

「鈴木の手の届かないところに行っちゃうのを笑って見届けられるの?」

「やめろ!」

大声を出した鈴木をタオルの上から抱きしめる。泣いている。かわいそうな、鈴木。

「……ほら、ね?そんな中途半端な気持ちで、叶わなくていい、なんて言っちゃだめだよ」

「っ……さ、と……」

(俺のようにできないのなら、その言葉を俺の前で使わないでよ。ああ、俺はきっとおおばかものだ)

ほと、と、水が俺の頬を伝った。鈴木に付いていた雨の滴が垂れたようだ。





なみだがきらめく



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