(佐藤と鈴木)
世の中には嘘が溢れている。八割ぐらいは全部嘘だ。その中に俺は多大に含まれているしむしろ自ら嘘を生み出したりする。
「今日も平介休みか」
風邪をこじらせたらしい平介はもう三日も学校に来ていなかった。退屈そうにため息をつく鈴木を横目で見る。どうでもいい、って顔をしてる、ふり。内心が荒れているのを俺は知っていた。
「平介の家行く?」
「行ってどうすんだよ、行って風邪が治るわけでもない」
「ふうん、行きたそうな顔してるけど」
鈴木が眉をひそめる。馬鹿だね、素直になればいいのに。
「あー、俺が行きたい、って言えば、鈴木は行くのかな?」
「……おれやっぱおまえ嫌いだ」
「傷つくなあ」
もちろん傷ついてなんかないし、鈴木は俺を嫌ってもいない。嘘にもならない嘘だ。
鈴木は平介が好きで、でもそれを言い出せない。不器用で愚かな鈴木。そんな鈴木を見守るのが俺の指命、役目。かわいそうな鈴木を守ってあげる。平介に突き放された鈴木を抱きしめてあげる。俺はなんて健気な友人なんだろうか。
「行くぞ」
「で、結局行くんですかー」
「うるせ、嫌ならついてくんな」
「いや行くけども」
だって俺は平介も好きだから。博愛主義を気取る俺はいつ何時でも万物を愛していないといけないのだ。
(愛するかあ)
高校生が愛だの何だのってバカらしい。一気に胡散臭くなったその言葉は俺の口から出ることなく胃に落ちた。あの後輩も恥ずかしくないのだろうか。偽物だと疑ったことはないのだろうか。
でも、と、俺は不機嫌そうな顔の鈴木を見る。でもなあ。わかってるんだけどなあ。面倒なことは嫌いだし深入りするのも苦手だけど。
(鈴木のことはちゃんと愛してるんだけどなあ)
その言葉も、俺の口から離れると途端に嘘くさくなってしまうだろうから、俺は一生言わない。
虚像ランド
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相変わらずかわいそうな佐藤さん。