(男鹿と古市・幸せじゃないので注意)



知らなくていいと思っていたのに。知ってほしいとどこかで願っていた、ずっと。


「おまえさー、そんな毎日いろんな女とメールして飽きねーの」

ある冬の日だった。授業をサボったおれと男鹿は屋上でだらだらしていた。寒かったけど、なぜかお互い教室に戻ろうとは言わなかった。

「飽きねーよ、むしろなんで飽きるわけ?」

「いや、女とか、そういうのが大事だって神経がどうもわからん」

「てめっ、世のお姉様方を侮辱する気か」

「そうじゃねえよ」

いま思うとその日の男鹿はすこしおかしかった。いつになく真剣な顔で、おれは焼きそばパンをまるまる一個食べることができた。いつも半分以上奪っていくのに。

それに話の内容も変だった。おれの女の子との絡みを指摘して来ることなんかなかったのに、突然。おれはこの時点で気づくべきだったのだ。でも気づけない、愚かなおれ。

「ただそういう感覚が理解できねーっていうかよ。何よりも大事なものが女になるのがよくわかんねーんだよ」

「はあ?おまえな、よく考えてみ?おれらが生まれたのは女性がいらっしゃったからだぞ?あんなやわらかい体を持って抱きしめてくれるのも女性しかいねえんだぞ?そういうのを踏まえると、女の子がなにより大事って考えに至るだろーが!」

「……ふーん」

「おま、ふーんって……真剣に聞いてんのか?」

口ではそう言いながら、こいつはそんな話聞かなくていいんだと思っていた。こいつの優先順位が変わることはない。一番がおれであることに変わりはない。それはおれも同じだった。おれの一番は男鹿で、それは変わらない事実。幼い頃からずっと一緒にいたから。お互いしかいない状況で。

ずっと変わらないって。男鹿の隣にずっといられるって、そう信じていた。確かな証拠もないのに。

「古市もそうかよ」

「なにが」

「優先順位、一番が女かよ?」

「あったりまえだろバカ、じゃなきゃおれが毎日毎日……」

「そっか、わかった」

「あ、男鹿?」

立ち上がった男鹿は腕を組んで、さらりと言った。

「俺、女と付き合うわ」

「……は?」

言っている意味がわからず聞き返す。付き合うって、なにが、なにと?

「昨日、隣町の女子校のやつに好きだって言われてよ。どうすればいいかわかんなかったけど、てめーがそこまで言うならそれが正しいんだろうよ」

説明されてもわからなかった。つまり、どういうこと。男鹿が女の子と付き合う。悔しいなんかこれっぽっちも思わなかった。思えよ、って頭の隅で建前が喚く。悔しくなんかない。それより意味がわからない。

おまえの一番は、おれじゃないの?

「正直よ、俺ん中で優先順位は古市が一番で、あとはどうでもいいって思ってたんだ。おまえもそうだと思ってたし、おまえがそう思ってんなら間違ってねえって思ってた。けど、おまえもそうでもないみてーだし、じゃあ俺も勘違いしてたんじゃねーの、とそう思ったわけだ」

「っ、お、が」

「先に女できたからってやきもち焼くなよアホ市め」

違う、違う。やきもちなんか焼かない。そんなことより、ああ、おれはなんてバカなんだ。おれの一番はおまえだって言おう。いまならきっと間に合う。大丈夫。だから、

「……ははっ、おまえ、もう喧嘩できねーな!女の子泣かしたら格好悪いぜ?」

「うっせ」

ふ、と、何かがおれの中から出て行った。心は軽くなったけど無性に泣きたくなった。それがおれの恋心だったと知ったのはずいぶんとあとのことだった。





夢想少年は冬に殺された



-----
タイトルは 水葬 様からいただきました。
解説編になったはず、です、が、ううん

一応補足。つまり男鹿→←古市で、お互い自覚なくて、男鹿さんは告白されたからそこで自分の中に疑問が生まれて、古市に意見を聞こうとしたら古市は男鹿が一番じゃないって言うから、じゃあ俺も気のせいかな、って思っちゃって、古市も建前ばっかり分厚い壁を作って言い出せなくなって、あああああ、というところで春の死骸につながります。古市の抜け殻はつまり古市の恋心で、まだ未練たらたらってことです。つらい。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -