(男鹿と古市)
……あれ、なんで真っ暗なんだ。
いやべつに、意識失ったとかそういうのじゃない。物理的に、真っ暗だ。停電?いやまさか、雷も鳴ってねーし。
じゃあ、なんで?
「っ!」
突然指の先から感覚が戻ってきて、唇になにか柔らかいものを感じた。目を開いてもまっくらなのは、そこにあいつの顔があるからで、
「っ、ん?!」
キス、されて、る。
「ん゙ー!!!!!」
頭が混乱する。え、てかまて、なんでおれこいつにキスされてんの?こいつ記憶ない男鹿だよね?まさか記憶ない男鹿にとっておれはストライクだったとか?つか男同士ですけど?!いやもしかしておれのこと女子だと思ってる?……有り得る!
「んっ、んー!おっ……んっ!」
まずい、舌入れられる。なんとか歯を食いしばって守ろうとするが簡単に突破され、そのままベッドに押し倒される。ちょ、待て、いつのまにか体制逆転してるんですけど!
「(つうかこいつっ、記憶ねえくせに相変わらずキスうまっ……)ん、ふっ」
右手を搦め捕られてベッドに縫い付けられる。何が起こってるかわからず、なんかもう泣きたくなってきた。おれいまどういう状態なのかだれか説明してくれ。
「んっ……ぷ、はっ」
ようやく解放されたと思って一息つこうとしたら今度は首筋に顔埋めて来やがったので本気で身の危険を感じ、急所を思いっきり蹴り上げた。
「っ……?!?!」
「っこ、こんの変態!スケベ!エロ魔神んんん!」
「はっ……う、うるせーよてめーが悪いんだろうが!」
「はー?!おれのせいかよ!おれいま押し倒されてレイプされようとしてたんだぞどーみてもおまえが悪いだろ!」
「レッ、レイプとか言うな!合意の上の和姦だろうが!」
「どっからどーみてもレイプだろーがどういう思考回路でそうなんだよ頭沸いてんじゃねーの!」
「だっておまえがっ」
あくまでそう言い張る気か、と身構える。けれど男鹿の口から出たのは、
「……おまえが、そんな風に思ってたなんて知らなかったんだよ、アホ」
真っ赤な顔で、絡んだ右手を握りしめて、そう言うのだ。
「え、あ……」
まさか。
「……男鹿?」
「そーだよ、アホ」
「……いつから」
「おまえが風呂入ってる間にヒルダとベル坊が帰ってきて、記憶戻ったの言おうと思ったらおまえがなんか喋り出して、タイミング逃した」
「……つまり」
「全部聞かせていただきました」
「っ……?!」
「ちなみに」
男鹿の指差す方を見る。すると窓の外には。
「……おれ記憶喪失になりたい」
ヒルダさんベル坊アランドロンが仲良くこっちを見ていましたとさ。