(男鹿と古市)
「……は?心理テストか?」
「ちげーよ!どんだけ乙女思考だよおれ」
「なら何の話だよ」
「いーから聞け!……おれはな、好きなひとに好かれたかったら、好きなひとに好きなようにされたらいいって思ったんだ」
後ろで男鹿が動く気配がした。多分こっちを向いたのだろう。構わずおれは続ける。
「どんなことやっても、そいつがおれのこと好きになるはずがないってわかってたからさ。そんならいっそ、おれがそいつの好きなようになればいいと思った。ありのままのおれなんか受け入れてくれるはずないから、そいつが愛してくれるような姿に変わればいいと思った」
決しておれを愛してくれない男鹿。叶うことのない恋。最初で最後のおれの初恋。
「でも実際問題、容姿は変えらんねーだろ?変身なんかできるわけねーし。だから、どんな扱いでもいいから、どんな狡い手でもいいから、そいつにこっちを見て欲しかった。愛してほしかったんだ。だからおれは、そいつに構ってもらえるよう仕向けた」
挑発して、おれで試せよ、とか言っちゃって、それでキスする度勝手に傷ついた。こいつはおれを見てないのに。だれかのことを想っておれにキスができちゃうんだ。おれはこんなにもおまえが好きなのに、おまえは好きじゃなくてもキスできちゃうんだ。その事実が悲しくて、辛くて、痛くて、おれは男鹿の中でどれほどちっぽけな存在なのかと知らしめされている気がした。
「ばかだよな、ほんと、傷つくのが怖くてさ、嘘ばっかついて狡いこといっぱいして傷つけて、……っ、そのくせ、甘い恋愛したいとか夢見ちゃってるから余計傷ついて、さ、っ……なんで、だろっ、好きなひとに好きになってもらうって、ただ、それだけなのに、なんでこんなにっ……」
なんでこんなに難しいんだろう。たったひとつだけなのに、おれが望むのは。男鹿におれを好きになってほしい。ただそれだけだったのに、ずいぶん遠いところまできてしまった気がする。ぱたぱたと落ちる涙を止められない。本当にバカだ。大馬鹿野郎だ。
男鹿、会いたい。いますぐ戻ってこいよ。好きだって言わせろ。はやく。
「……なあ、古市」
「な、っ……んだよ」
「おまえってアホだな」
その一言にカチンとくる。普通泣いてるやつにアホとか言うかよバカ!
「うっせーなわかってるっつーの!おれはどーせアホですよついでにバカですよ!」
「いやわかってねーな、まじアホだわおまえ」
「だからわかってるって、」
突然目の前が真っ暗になった。