(夏目と古市)
「きみって本当に好きだよねえ」
大きくて丸い瞳が少しだけこっちを見て、またすぐパソコンに目を戻す。パソコンに流れるは彼の愛しの幼なじみの部屋の映像だ。彼はどうも愛情が変な方向に向きがちで、俗に言うストーカー紛いのことを平気でやってのける。男鹿くんにのみであるのが唯一の救いか。
いつの間にか取り付けたらしい男鹿くんの部屋のカメラは優に三十台を超えていた。それらをすべて一台のパソコンで管理し、所有している。なぜそれを俺の部屋で行っているのかというと、そのカメラもパソコンもすべて俺が買い与えたものだからだ。つくづく、バカらしい。けれどこの子に夢中になった俺が悪い。彼が望むものなら、すべて与えてあげたい。そう思ってしまった俺の負けだ。
最初は知らなかった。男鹿くんの横になぜかいつもちょこんといる肌と髪の白い少年。その程度の認識だった。けれど、いつだったかに見た、雨に濡れた彼の瞳が、酷く可哀相で、可哀相で、惹かれてしまったのだ。それが間違いだった。彼は可哀相ではなかった。いや、ある種可哀相ではあるが、それは彼自身がそのことに気づいていないからであって、本人からしてみれば幸せな生活を送っていたに過ぎない。
彼は自分が異常であることに気づいていなかった。男鹿くんに執着し過ぎていることにも気づいていなかったのだ。端から見れば彼は可哀相であったが、それに気づかない彼はなんと愚かで、寂しいのだろう。俺はそれを教えることはしなかった。彼が求めるものをただ与えつづけた。そうすると彼が笑うからだ。純粋の皮を被った笑みで。
「ね、ちょっとは俺の相手してあげようとかないわけ?」
「ないですね」
「この部屋、俺の」
「夏目さんはこの部屋とパソコンの付属品です」
男鹿くん以外には辛辣だね、と笑うと返事はなかった。少しぐらいこっちを見ればいいのに。一向に振り向かないあの子と違って、俺はずっと君だけ見ているのに。
「古市くんさ、俺のこと好き?」
「えー……嫌いじゃないですけど」
「男鹿くんとどっちが好き?」
「ええ……そんなの、わかんないっすよ」
そう、彼は男鹿が好きだという自覚さえないのだ。可哀相。可哀相な古市くん。
「古市くん、口」
顎を掴んで唇を付ける。唾液を向こうに流し込むと、がり、と嫌な音がして唇が焼けるような錯覚を起こした。反射的に体を離す。古市くんはむすっとしながら舌を見せ付けてきた。俺の血だ。唇噛み切るなんて、まったく君は。
「なんか、調子乗ってるみたいなんで、おしおきです」
ぞくり、とする。少年のように無邪気な顔をする癖に、と舌打ちをした。ざらりとした血の味が口いっぱいに広がる。
「なつめさん、おれ、あなたのこと大好きですよ」
そのかわいそうなところが、と言って唇を歪めた。何を言うか、可哀相なのは君の方でしょう、。しかし彼は綺麗に、それは綺麗に笑うので、俺も笑った。
相対的感情
(結局は惚れた方が負けか、)
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気持ち悪い夏目さんと古市。ストーカー古市が書きたかったのです…すみません。
夏目→→→→古市。古市は男鹿しか見てないけど恋愛感情じゃないと思ってる。実際はどうだか(^o^) 夏目さんとちゅーとかは平気でする。それとなくビッチな香り。