(男鹿と古市)



(……いてえ)

男鹿に担がれたまま帰宅したおれは、そのまま風呂場に放り投げられた。熱めのシャワーは傷に染みたが、それも自分への戒めとして刻み付けた。

男鹿が全部思い出したら、謝ろう。そんで、許してくれたら、ちゃんと言おう。おまえが好きだって、ごまかさずに、ちゃんと自分のことばで。第一段階から間違ってたんだから、そりゃ関係も捻れるよな。まず最初の時点に戻って、それからやり直そう。それでフラれたとしても、……そりゃ落ち込むけど、こんなのよりずっとマシだ。

(……戻れる、のかな)

シャワーを止める。謝れば、ちゃんと元のふたりに戻れるんだろうか。幼なじみだったあのころに、ほんとうに?

怖くないと言えば嘘になる。だって男鹿はほとんど流されてただけだし、正気に戻ればおれのこと変な目で見るってことはわかりきっている。おれはその目に耐えきれるんだろうか?おれの世界は男鹿自身だというのに?

「それすら、罰だよな」

ぴちゃん、水が滴る。



「上がったぞ」

「ん、ああおかえり」

部屋に戻ると男鹿はベッドに寝転んで漫画を読んでいた。普段ならその傍らに座るところだが、いかんいかん、こいつはいつもの男鹿じゃないんだ。と、床に座ろうとすると、

「なんでそんなとこ座んだよ、ここ座れ」

とか言って手招きしてくる。なんだこいつ。まあ、それを拒否するのもなんなのでベッドに横向きに腰掛けた。

「水、冷てえ」

「え?あー、ごめん」

「風邪引くから気をつけろよ」

「……ん」

なんかやけに優しい。さっきの見て同情してるんだろうか。男鹿が同情?そっちのほうが気持ち悪い。

そういや、記憶が戻ったら、今の記憶は消えてしまうんだろうか。普通はそういう展開だし、おれとしてもそっちのほうがありがたい。もし、いまの記憶が残らないのだとしたら。

「……時に、男鹿くんよ」

「あ?なんだ気持ちわりぃ」

「ちょっと聞いてほしい話があるんだけどもね」

まあこいつにも借りがあるし、嘘はつかない。予行練習、みたいなもんだよな。うん。



「好きなひとに好かれたかったら、どうしたらいいと思う?」









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