(男鹿と古市)
部屋に入ると古市のアホが寝ていた。いや、アホの古市か。どっちでもいい。大口開けてあまりにアホ面で寝ているもんだから、とりあえず写メを撮っておいた。
俺は古市が好きだった。多分、古市も俺が好きだった。でもお互い言わなかった。言えなかった。自分の感情が形になるのが怖かった。間違いなんかじゃないとわかっていたはずなのに。形になって困ることなどないとわかっていたはずなのに。俺も古市も変わるのが怖くて、何もしなかった。「好き」なんてたった二文字なのに、なんで俺たちは言えないんだろうか。バカだと思う、心底。でも、そのたった二文字が、俺たちのすべてだったりするんだ。
「す、き」
「……は?」
イヤ。マテ。なんだいまのは。この部屋にいるのは俺と古市、そして俺は発言してない、と、いうことは。
「っ……古市……」
なに、なんだよおまえ。言えねーんじゃねえのかよ。なにそんな簡単に、壁、ぶち破ってくんだよ。
「……好きだよ」
呆れて笑う。なんだよ。俺もおまえも、簡単に言えるじゃねーか。自分の気持ちぐらい、簡単に口に出せるじゃねーかよ。怖がってるのは互いのことを思うからだ。けど、ふざけんな。俺とおまえの間に遠慮もクソもあるか。おまえがどんな表情だろうが関係ねえよ、な。なあ。
古市が目覚めたら、まず一発しばく。んで、好きだ、って言う。弊害なんか知るか。あ、でもやっぱ、ちょっと便所行ってからにするか。
「……ん、あれ、男鹿?」
awake or asleep
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同じく、お題は 水葬 様からいただきました。
なんとなく二部作になってしまいました…^^男鹿さん目線という。とりあえずこの後は古市目線に続く、ということで、古市目線の方で最後にいなくなった男鹿さんは便所に行きました。若干チキンな男鹿さん!モエ!