(桜と兄・高校生と大学生)



「もう、さくらくんの季節だねえ」

「……はあ」

また意味のわからないことを言い出した。自転車を押す俺の隣をとろとろと歩いてついて来る兄さんはにこにこと笑いながら俺を見てきた。

「ねえ、今年はどこがいいかなあ」

兄さんの会話に主語がないのはいつものことなので、軽く聞き流しているとこれまたいつものようにひとりでぺらぺらと話し出した。それをよく聞いていると、どうやら花見の話らしい。

「てつこも少しは女の子らしくなったし、さくらくんにも見てもらいたいなあ」

で、今年も『みんなで』行くつもりらしい。みんなというのはつまり、てつこも犬も雪もなぜかあの紳士とやらの一味までそれはそれはありとあらゆるメンバーのことだ。中学まではそれでも仕方ないと思っていたがそろそろ限界だった。俺、もう高校生なんですけど。

俺と兄さんが一応付き合い始めたのは俺が中二のときで、一応キスしたのは中三のときだ。なぜ一応と付くのかといえば、どんなときも兄さんが一切そういう雰囲気を出して来ないからだ。俺がめちゃくちゃ緊張して思い切って告白したのに兄さんの返事はまるでちょっとそこまで着いてきて、っていう言葉の返事のように軽かったし、キスしたあともする前も変わらずにこにこぽやーんとしていた。もっとムードみたいなもんがあるだろ、いやまあそこがかわいいんだけど。……じゃなくて。

ふたりでどこかへ行ったことなんかないしあるといえばお互いの家くらいで、遠出するときはいつも『みんな』で。ただでさえ学校が違うのに、休みの日にふたりでデートしたいと言おうものなら大学で実験があるだの研究したいだのとのらりくらりとかわされる。ていうかあんた海外で大学卒業してんだからもう行かなくてもいいんじゃないの。

「、さくらくん?」

歩みを止める。少し先まで歩いた兄さんがくるりとこっちを向いた。俺はほんとにこのひとの恋人なんだろうか。このひとは本当におれが好きなんだろうか。まさかほんとにただどこかへ付き合って、と間違えて返事したわけじゃないよな。

「さくらくーん?どうしちゃったの、具合悪い?」

「……俺、あんたのなんなんすか」

「え?」

「兄さんは俺のこと好きなんですか。デートも行ってくれないしキスはいつも俺からだしへらへらしてるし、お花見だって俺はみんなでなんか行きたくない、あんたと二人きりで行きたい。俺のことどう思ってるんすか、俺のこと好きですか」

これぐらい言わないと兄さんにはわからないだろう。兄さんはしばらく俺を見て、ぐるりと背を向けた。え、なに、フラれる?

「……そういうさくらくんはさ、ぼくのこと、すき?」

「好きっす大好きっす愛してます」

間髪入れずに即答する。当たり前だ。じゃないとこんな変なひとと付き合えるはずがない。

「へっ、へえ、そうなんだあ……」

なんだその気のない返事は。しかもどことなく震えている。まさか、泣いてる?自転車のスタンドを立てて兄さんの方に近づいた。

「ちょ、どうしたんすか」

「え、や、なんでもないよっ」

「嘘でしょう、ねえ」

肩を掴んで無理矢理こっちを向かせる、と。

「や、あー……ちょ、見ない、で……ください」

腕で顔を隠すようにしていてもわかるほど、耳まで真っ赤になっていた。あの、兄さん、が。

びっくりして手を離すと光の速さでまた向こうを向いた。え、ていうか、なに、めちゃくちゃかわいい、んですが。こっちまで顔熱くなってきた。

「い、や、あの……さ、さくらくんがそんなこと思ってたなんて知らなくて、さあ……いや、知、ってた、けど、その、こ、言葉にされる、と、なんて……なんというか、そのー、うん、ええと」

「に、兄さん」

びくりと肩が震える。もうずいぶん前に追い抜かした身長。でもあなたは、いつだって俺の思考の斜めをぶっ飛びつづける。

「あの……俺のこと、好き、ですか」

「っ、う、うー」

ついにしゃがみ込んでしまった。やばい、こんな兄さん初めて見た。もっと、もっと知りたい。かわいい、俺だけの。

前に回り込むと膝に顔を埋めた兄さんが目だけを上にあげた。それだけでわかる、真っ赤だ、このひと。

「ね、俺のこと、好き?」

「……ぃ」

「え、」

「は、はずかしい」

「っ……」

なに、なんだこのかわいい生物は。夢中で小さくなった体を抱きしめた。かわいいかわいいかわいい、自分の顔まで熱い。なに、じゃあいままでまったくそういう雰囲気にならなかったのは、恥ずかしかったからってこと?好き、さえ恥ずかしいなんてどこの中坊だ。

「……あの、兄さん」

「は、はい」

「勃った」

「?!」





君に首ったけ!
(ずるい、ずるい!)



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終始俺得でだれおまな桜兄でしたー。賢犬好きだ…ていうか葦原先生が好きだ。うわん
桜兄増えろー



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