(佐藤と♀鈴木)



「ちょっと、」

珍しく平介が学校を休んだ日、帰る用意をしていると突然服を引かれた。振り返ると上目遣い気味に鈴木がこっちを見ている。ちょ、待って待って、その顔、反則。

「……どしたの」

「どうせ平介んち行くんだろ、これ、持ってけ」

手渡されたのは今日調理実習で作ったマフィンだった。当たり前だがおれと鈴木(平介も)はクラスが同じなので、おれもそれを作ったし持って行くつもりだった。て、いうか。

「いやいや、鈴木、行かないの?」

「えっ、いや」

「平介んち。いまから行くけどさ、鈴木も行くんだと思ってたんだけど?」

「い、いやいや、それは」

しどろもどろの鈴木におれは頭に疑問符ばかりが浮かんだ。そういえば、最近おれはようやく鈴木と付き合い始めた。それからだ、鈴木が平介の家に行きたがらなくなったのは。

「鈴木?なんか悩んでるなら、言ってよ。彼氏だよ?」

「っ、か、かれしとか」

白くて小さな手を包み込んで目線を合わせる。うろたえたように動く瞳が愛しい。まっすぐおれを見れない、恥ずかしがり屋なおれの彼女。

(かわいー……)

キスしたいな、けどここ教室だしな、と悶々していると、「だって」と鈴木の口が開いた。

「うん?」

「っ、だっ、て、一応付き合っ、てるし、その、か、かれ、し、いるのに、他の男の家に行くのはっ、その」

ぽかーん。いまのおれに効果音を付けるとしたらそれだ。それと同時に吹き出した。

「わっ、笑ってんじゃねー!」

「ふ、ははっ、ごめ、ごめん鈴木っ……ひひひっ」

真っ赤な顔で殴ってくるのを受け止めて、うっかり浮かんだ涙を拭う。かわいい、かわいいなあほんとに。

「そりゃ、内緒で行ったら嫉妬するけどさ?今からおれも一緒に行くじゃん。それなら、鈴木が変なことされないよう見張ってられるよ?」

「へ、変なこと、って」

「ていうか、おれとしては鈴木の手作りが平介なんかの胃袋に収まっちゃうのが嫌なんですけどー」

鈴木の手からマフィンを奪い、未だ赤い顔をした鈴木の額を弾く。

「だから、これはおれにちょーだい?一緒に平介んち行こうよ」

「……うっぜ」

「あはは、言われ慣れてるよー」

そもそもそんな顔で言われても、もっとちゅーしたくなるだけだよ!





I need her!
(というわけで来たよー平介!)
(いますぐ帰ってください)



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バカップル佐鈴。幸せそうなふたりを書けてよかった…゚(゚^O^゚)゚
変なところを気にする鈴木がかわいい



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