(佐藤と鈴木)



聞きたいことは腐るほどあった。でも俺はそのすべてを飲み込んで右手に籠めた。わからないのは、それでも佐藤が笑っている理由だ。

「なに、笑ってんだよ」

「え、へへ、なんでかなあ」

ひとを殴ったのはけして初めてではなかったが友人を殴ったのは初めてだった。それなりに威力はあると思うけど相手が相手だからどうだか。それでも少しだけ頬を赤くした佐藤はおとなしく床に転がっていて、そのくせに壊れたように笑うから腹が立った。胸倉を掴む。佐藤と目が合う。

「なんでこういうことすんだよ」

「、うん、なんでかなあ」

「ふざけてんのか」

「あは、鈴木、怒ってる」

「っ、」

もう一度殴る。抵抗はなかった。なんで、なんて、こっちが聞きたいのに。

佐藤が平介を突き落とした。階段から。その場にいなかった俺はその事件の全貌を知らなかったが、頭に血が上ったのは一瞬だった。大事にはいたっていないようだが念のためと病院に運ばれていく平介を見て完全に切れた。

教師に話を聞かれる佐藤を待ち伏せして教室に引きずり込んで殴った。理由が聞きたいだけだったのに、こいつはただ笑うだけで。

「おまえ、平介のこと突き飛ばすほど嫌いだったのか」

「ううん」

「なんかあったのか」

「なにも」

「じゃあなんで!」

なんでそういうことをするんだ。問い詰めても何も言わなくて、もう一度殴ってやろうかと思ったら、佐藤は泣きそうな顔で笑った。

「鈴木、おれ、平介も鈴木もだいすきだよ」

「、なんで俺まで」

「だから、だいきらいなんだ」

だいきらい。佐藤の口から紡がれたその五文字がうまく変換されずうろたえる。胸倉を掴んでいた手首を逆に掴まれる。その手はひやりとしていた。

「鈴木、おれ、おまえがだいきらい」

そう言って泣く佐藤があまりに不憫で、俺は手を伸ばして佐藤を抱きしめた。





暴徒の嗚咽



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平介←鈴木に我慢できなくなってやっちゃった佐藤氏。ちなみに平と鈴木は無自覚。かわいそうな佐藤



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