(鏡音双子と初音・R15)
コウノトリは子供を運んで来るらしい。なら、わたしはそれになりたかった。何も生み出せないわたしはせめて生まれるものを運ぶものになりたかった。そんなことをして、満たされるものは何もないと知っていたけれど。
「レンは本当に子供よね」
「はあ?」
目の前でぴょこぴょこと揺れる髪を引っ張り、同じ顔をした弟にため息を吐く。同じ顔のはずなのにどうしてこうも違うのだろうか。
「子供、って、僕から見たらリンだって子供だけどね」
「なによ、わたしのどこが子供だっていうの?」
「そういうとこ。子供だとか関係ないじゃないか、僕らはどうせリンの言う大人にはなれないわけだし」
「違う!わたしは見た目のことなんか言ってないもん」
「あ、そ」
わたしは精神的な話をしているのに、レンはただ呆れた表情を向けるだけだった。そういうところが子供なのよ。ちょっと難しい話をしたら何も聞いていないふりをする。双子なのに、どうしてこうも違うの。
「レンくーん……って、あれ、リンもいたんだ」
「ミク姉」
へらりと笑うミク姉は天使のようだった。レンはたぶんミク姉が好きなんだと思う。証拠に、いまも顔が赤い。それに気づいていないなんて本当子供。でもミク姉はカイト兄とできてる。できてるってつまりはまあそういうことだ。それも知らないレンはかわいそう。教えてあげないけれど。
「ちょうどよかった、実はね、びっくりすることがあって」
「びっくり?」
「うん、そうなの!」
なんとなく、ぞわり、と嫌な予感がした。ミク姉はどこまでも純粋な笑みを浮かべているのに、その笑みに恐怖を覚えた。レンは気づいていないようだった。
「わたしね、赤ちゃんができたの!」
わたしは言葉を失った。ミク姉は笑っている。ぞわぞわとした嫌な感覚は収まらない。
「……なに、言ってんだよ、ミク姉。僕らはそんな人間みたいなこと、できないよ……?」
そう言うレンの声は震えていて、わたしは唾を飲み込んだ。レンはわたしより狼狽しているようだった。そりゃあそうか、好きなひとがこんな異常なことを言っているのだから。
「あはっ、レンくん、なに言ってるの?わたしたちだって人間と同じよ。キスもセックスも、妊娠だってできるのよ」
「っ、」
「ほら見て、ここにいるんだよ、わたしの赤ちゃん。リン、いつかはあなたもこうなるのよ」
愛おしそうに腹を撫でるミク姉。なに言ってるの、それはこっちの台詞だった。ボーカロイドは妊娠なんてできない。わたしたちは生み出すことはできない。歌だってマスターに与えてもらわなければ歌えない。それを教えてくれたのは、ミク姉、あなたじゃない。
「……ミク姉、一応、聞くけど……誰の、子供?」
「っリン!」
レンが引き止めるけどわたしは構わず問い掛けた。わたしたちには知る権利がある。もしその相手がわたしたちの知らないやつで、そいつの入れ知恵でミク姉がこんな風になったなら、わたしはそいつを許さない。それはレンだって同じはずだ。恋慕なのかは別として、わたしたちはミク姉が大好きなのだから。優しくて、大切な、わたしたちのお姉ちゃん。
「この子?この子はね、」
ミク姉の指が止まる。そして、ゆっくりこっちを見た。
「レンくんだよ」
「……え……?」
「レンくんがね、一昨日の夜わたしの部屋に入ってきて、服を脱がせて、無理矢理えっちなことしてきたの。わたしの膣にいっぱい精子を注ぎ込んで、そうね、わたしのこと好き、好きって、そう言って」
頭が真っ白になった。レンが?ミク姉を?
「わたしにはカイトくんがいるって言ったのに、レンくんやめてくれなくて……どうせ赤ちゃんはできないんだからいいだろ、って言われたけど、わたし、赤ちゃんできちゃったみたい」
「っ……レ、ン」
隣に立つ弟を見る。目を見開いてそのまま動かない。嘘でしょ。嘘って言ってよ。こんなの冗談だって、そう言ってよ。
ミク姉の白い指がレンの頬に伸びる。レンはぴくりとも動かない。顔色は悪い。
「ねえ、レンくん、この子のパパになってあげてね」
反吐が出る、
落ちる鳥のゆくえ
:隈
-----
タイトルはのい宅から拝借。
ミクさんは実際は妊娠なんかしてないけどね、強姦されてこころの壊れてしまったミクさんの話でした