(男鹿と古市)



古市が泊まりに来た。のは、決して珍しいことではなく、なんだかんだ先週もうちに泊まりに来ている。俺の部屋のタンスの上から三段目は完全にあいつのものになっているし、生活必需品は二つずつ置いてある。なんだこれ。新婚か。

「男鹿ぁ、風呂借りてい?」

「ダメだっつったら入らないのか」

「いや入るよ。お姉様のエキスがきっと浴槽に……」

「おまえほんとに残念だな」

少し上機嫌で風呂場に向かう古市を見送る。俺の家はほとんどあいつの家みたいなもんだった。家族の知らない俺のエロ本の隠し場所も、知っているのは古市だけで、っていうかあいつが持ち込んだものがほとんどで(自分の部屋に置いておくと妹が勝手に入ってきて漁る可能性があるらしい。ちなみに俺の意見は丸無視である。)わが家の至るところに古市のかけらがあるわけだ。不本意ではあるが。

泊まりに来ることは一向に構わないのだが、あいつはそれがどういうことなのかわかっているのか、ということが問題なのだ。あいつもそうだが、俺は健康な思春期男子で、俺と古市は一応恋人とかいうやつなのだ。好きだとも言ったしキスもした。そういう仲である、のに、エロ本を俺の部屋に置くだとか無防備にベッドの上で寝こけるだとか、そういうことを平気でしやがるのだ。古市をあまり知らないやつらは「神経質そう」「繊細そう」と言うが、実際のところそれは見当違いにもほどがある。よくわからないところであれやこれやと細かく言うが、基本的には適当で脳天気。それが古市貴之という人間だった。

(あ、シャンプー)

はたと思い出す。そういえばシャンプーが無かった気がする。仕方ない、持って行ってやるか。

昔は一緒に風呂も入っていたが、高校になれば当たり前だがそれもなくなった。たぶんあいつは、今から俺が風呂場のドアをいきなり開けてもへらへらしながらシャンプーを受け取るのだ。俺がこう、ムラッとしていることも知らずに。

そこまで考えて、やめた。そんなことがあるはずもない。そもそもあんな貧弱で真っ白でぺらぺらな体に俺様が欲情するわけがない。とっととシャンプー渡して漫画でも読んでいよう。片手にシャンプーを持ち、ノックもせずに浴室のドアを開けた。

「おい古市、シャンプー……」

「ひょわぁああぁあああっ」

むわりと出てくる湯気、シャワーの音。それに負けない叫び声。……え、なに、古市?視線を下に向けると、頭からシャワーを浴びたままの古市がしゃがみ込んでいた。

いや、待てあの古市が。あの古市が恥ずかしがるはずが、ない。しかし耳の赤さは風呂に入っているからという理由でごまかしきれるものではなくて。

「なっ、なっ、なんだよ!開けるときは開けるって一言言えバカオガクソオガちんかす!死ね!」

「い、いや俺はだな、ただシャンプーを」

「うっせーっ口答えすんなっ!」

ガツンと飛んできたのは洗面器。俺ん家だぞここは。ギロリとこっちを睨むわりにはその瞳に迫力は無くて、綺麗な銀の髪が水気を含んでしっとりと落ちている。頬に張り付いた髪がいつもと違っていた。

ムラッ。

……なんだ今の音。

「シャ、シャンプーありがと……わかったから、も、もうどっか行けって」

丸くなった背中を伝う雫、熱で赤く上気した体。相変わらず肉のない、真っ白で貧弱な体。

「……おが?」

そんな顔で名前を呼ぶな。


「っ?!」

服が濡れるのも構わず浴室に入り込んで後ろ手にドアを閉める。混乱した表情の古市をそのままタイルに押し倒して馬乗りになった。本来古市に当たるべきシャワーは俺の後頭部に降り注いでいる。

「おまえのせいだぞ」

「えっ、ちょ、男鹿っ?な、なに、つか離せっ恥ずかしいからっ!」

「黙れよ」

びくりと組み敷いた体が揺れる。瞳は不安げで今にも泣き出しそうだ。が、無視することにした。ここまで煽ったのは古市本人だからな。

「久しぶりにがんばっちゃうかも」

「え、がんばる、って、何を、」

にやりと笑って濡れた唇に自分のそれを押し付ける。今の俺の顔はさぞかし悪魔のようだったろうな。





びしょ濡れ境界線



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ついったのお題から、れんちゃんへ!
恥ずかしがる古市と恥ずかしがらない古市で相当悩んだんですが恥ずかしがってもらいました。みんなが思うほど神経質じゃないけど、男鹿が思ってるよりは神経質だとかわいいな。
そしてこのあとは魅惑のR18コースですねわかります。



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