(マスターと鏡音双子)



レン君がすきなの、と、彼女は泣いた。ぼくはかわいそうにとディスプレイをそっと撫でた。

そもそもボーカロイドが自由に喋るなんておかしな話だ。しかしぼくのパソコンにインストールした鏡音きょうだいはよく話した。勝手に起動しては自由きままに喋りだす。二人で喧嘩をしだすことなんて珍しいことではなかった。

けれど向こうにはぼくの声は聞こえないらしい。こんなもどかしいのもそうないだろう。こちらからの声にはなにも反応してくれない、なんて。

彼女は悩みを抱えていた。実のきょうだいであるレンに恋慕を抱いていた。それは彼女自身罪だと自覚しているようで、時折ぽろぽろと泣き出した。そしてまた彼も悩みを抱えていた。彼もリンが好きだった。時折悔しそうに泣いた。そんなふたりにぼくはなにも言ってあげられなかった。両想いであるのに血縁がそれを邪魔する。そのことがかなしかった。なんとか助けてあげたいと思ったのだ。


そしてぼくは新しいパソコンを買った。そして買ってきたものをインストールする。そこに現れたのは金髪の双子。

二台のパソコンを向かい合わせにすると、彼ら彼女らはそれぞれに嬉々とした表情を浮かべた。きょうだいと同じ姿をした、きょうだいではないもの。愛してもいいのか、と。それを見たぼくはパソコンを購入するまでのあの昂揚はどこかへ消え去ってしまっていて、なんとも言えない気持ちになった。愚かなボーカロイド。かわいそうに。

いくら愛しても、それはほんものではないというのにね。





フェイク



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