(総子とパチ恵・大正パロ)



「そう、わたしってせっかちなの。」沖田さんはそう言うけれど、わたしはそう思ったことなど一度としてなかった。沖田さんは気の長い方だと思う。クラスでいつもからかわれている話下手な子の言葉も急かさずきちん聞くし、逆にお喋りな女の子の話も最後まで聞くし、長い説教で知られる初老の先生に対しても真正面から向き合っている。そんな彼女を見て、せっかちだなどと言えるはずもない。

「のんびり屋なのは志村の方じゃない」

「ええ、わたし?わたしの方が、沖田さんよりよっぽど、せっかちよ。姉様のお小言だってまともに聞けやしない」

「いいや。志村はのんびり屋さんだわ。馬鹿馬鹿しいくらいにね」

何だかからかわれている気がして顔が熱くなる。沖田さんはその美しい顔を柔らかく緩ませて微笑んだ。わたしとは違う整った顔立ち、滑らかな白い肌。羨ましいと思わない女生徒など、この学校には一人としていないだろう。丸い眼鏡を知らぬ内に触っていたことに気づき、慌てて手を下げる。

「いやだ、褒め言葉なのよ。わたしはせっかちだから、羨ましい」

「だ、だから、沖田さんはせっかちなんかじゃ」

「だって、待っていられないのよ。あなたみたく」

空を仰ぐ沖田さんにつられ、わたしも首を捻る。真っ青な空に、一筋の飛行機雲。数ヶ月前に出て行ったひとのことを思い出し、はっとする。

「らしく、ないわ」

そうして、沖田さんは目を閉じた。このひとも数日前、誰かを送ったと聞く。噂でしかなかったけれど。だって、そんな様子なんてちらりとも、見せたことがなかったから。皆の憧れである彼女に男の影など、誰ひとり感じたことはなかった。だから噂なのだと思っていた。

迎えに行けぬことは、わたしも恐らく彼女も知っていた。だからこうして空を見上げるしかなかった。いずれあのひとが飛ぶ空を(散る空を、)黙って見上げるしかなかった。






(嗚呼いま貴方が何処に居るのか知つていれば走つて貴方の所へ行くと云ふのにわたしは貴方の何も知らないので、)

(只祈るしか出来ぬのです)




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Q.総子って誰ですか?
A.女体沖田さんです。

なんとなく設定:大正時代、女学生の総子とパチ恵。同級生。マドンナ的存在総子とイモ娘パチ恵が仲良しな理由は不明。ていうか別に仲良しでもない。総子は土方とデキてたけど召集されてしまっていまは一人ぼっち。パチ恵も数ヶ月前に彼氏が連れていかれた。その彼氏はたぶん銀色のひとじゃあないかなあ。
ちょっと百合っぽいふたりを書きたかったけど挫折したでござるの巻。



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