(土方と沖田)



容赦なく人を斬ると言われたのは俺が先かあのひとが先か。それはわからないしどちらでも善いが、あのひとに対して使うにはあまりに酷ではないかと思う。だってあのひとは今も、自分が斬ったわけでもない痛みに苦しんでいるのだ。

人斬りと言われるのにはもう慣れた。そもそもこの職に就いたとき、大将に一生着いていこうと決めたとき、何があっても動じないと決めたのは他でもない俺自身だった。あのひともそうだったはずだ。あのひとが苦しんでいるのはそのことではなかった、俺が人斬りだと言われることに、嘆いているのだ。エゴの塊としか言いようがない。俺が何も感じていないのに、あのひとは一人でのたうちまわっている。滑稽である。

「土方さん、俺ァ平気ですよ。斬ることも、何と呼ばれることも、アンタが危惧してること全部どうだっていいんです。俺は近藤さんのためなら何でもするって決めたんです。だからアンタもいちいち反応しねェでくだせえ。早死にしますよ、そんなんじゃあ」

一度、討ち入りの後にそう言ったことがある。血まみれの刀を握ったままだった。恐らく顔や服にも同じように赤が飛び散っていただろう。土方は眉間にシワを寄せて、莫迦野郎、と言った。

「そう言ってる間は、まだ放っておくわけにいかねえ」

「……どういう意味でィ?」

「獣を飼い馴らせ、総悟」

それきり、その話題を口にすることはお互いなかった。言葉の意味を理解することは出来なかったが、また子供扱いされたのだということはわかった。獣を飼い馴らせ、?獣などいない。俺の中に獣などはいない。いるとしたらアンタの方だ。牙を磨いて潜んでやがる、昔はあんなに外に出してやがったのに、最近ではすっかり姿を見ない。そういうのが「飼い馴らす」ということであれば、俺は真っ平御免だった。強さを、殺気を、隠すことに何の意味がある。撒き散らして畏怖を与えることこそ真の獣の使い方ではないのか。俺は少なからず苛立っていた。不逞浪士共を斬っても、斬っても斬ってもその苛立ちは消えなかった。人斬りと呼ばれても平気だった。

「総悟」

ある日、土方に部屋に呼ばれた。仕事の話だった。上層部と絡んでいて今はまだ派手に動けないから、起爆剤として単身で斬ってこいという指令だった。俺は二つ返事で了承して部屋を出る。あいつのツラを見ていると苛立ちしか湧いて来なかった。気に食わない野郎だ。

作戦決行の夜、俺は滞りなく目標を斬った。ミスをするはずなどなかった。しかし一つ誤算があった。ガキがいたのだ、その目標には。父親を斬った俺を怯えた目で見てくるそいつは、まだ十にも満たない男のガキと、姉であろう気丈に振る舞おうとする女のガキだった。

「わたしたちも、斬るの」

目を吊り上げて睨みつけてくるが、怯えているのはわかった。刀を少し振るだけで縮こまる。ガキであっても、黒い分子は全て潰す。いつしか大物になられては困る。だから斬る。斬らなければならないのだ。

「一生、許さないから」

許されることなど望んでいなかった。許されてはいけないのだ。安息の地など、もはや世界中のどこにもありはしなかった。



「土方さん」

襖を開けると、想像通り書類と格闘していた。返事はないが、背中に向かって声をかける。

「俺も、アンタの心配してやりまさ」

「そりゃーありがてーな」

「アンタは誰にも許されねえ。何しろ鬼の副長ですからねィ、人を斬って斬って斬りまくってますから、地獄行きでしょう」

「そうだろうな」

「でも、世界中で俺だけはアンタを許してあげまさ」

書類をめくる手が止まる。振り返らない内に襖を閉めた。土方が俺ばかりを構う理由が、ようやくわかった。





けものの情、何処に在らむ



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お題は 霈然たるや、星雨 様からいただきました。
お互いの中にお互いを見ている副長と隊長



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