(土方と沖田)



アンタ、出張だそうですねィ。わざわざ極秘にしていた情報をそうせざるを得ない状況を作り上げた本人の口から聞いたときには昏倒しそうになった。否、実際にしなかっただけでも褒めて欲しい。あの山崎にすら漏らしていない情報を、なぜこの万年サボりのクソガキが知っているのか。訊こうと思ったが驚きのあまり声が出ない。スパンと小気味よい音を立てて開いた部屋の襖の向こうに見えた光景がのどかそのもので、状況とのギャップに眩暈がした。

「何で秘密にしてたんでさ。アンタが出張なんて珍しいのに水くせえですよ」

いや。おまえのせいで出張出来ねーんだけど。俺がいないとおまえサボるじゃん。仕事しないじゃん。結果帰って来たとき仕事が倍になってるのが目に見えてるんだけど。しかも絶対根回しやらマインドコントロールやらして副長の席奪うじゃん。だから出張出来なかったんだけど。

て、いうか。誰だよバラしたやつ!バレねーうちに行って帰って来ようとしてたのに!その為の根回しもしてたのに!今までの俺の苦労返せよしかも他の奴なら未だしも最もバレちゃいけねーやつにバレてんじゃん意味ねーじゃん。バカじゃん。

「俺に黙って行こうとしてたなんて、ホント水くせえや。それならそうといろいろ準備がありやしたのに」

ホラなんかもう物騒なこと言ってるよこの子。どうすんの俺知らねーよ。真選組どうなっても知らねーよ。

「土方さん?」

「、あ、あー。すまん。忘れてた」

「忘れてた、って。健忘症じゃねえですか、アンタもう若くねーんだから」

「まだ若ェよ二十代舐めんな」

「俺の方がピチピチでさァ」

「テメーはガキだ」

「どこに行くんですかィ」

「大坂の方に……って、ぁあ?」

話の流れで答えちまったじゃねえか!しかし総悟表情をぴくりとも変えず、へぇ、と呟くばかりで、ますます怪しい。何を、企んでいる。

「何日ぐらい」

「……」

「答えてくださいよ。俺だってそれによってやることあるんですから」

「何をやる気だ、儀式だろ」

「何疑ってんですかィ、上司の出張の期間訊くのがそんなにおかしなことですか」

「テメーが俺を上司なんざ呼ぶ筈がねェ」

「ジョッキで殴られて死ね土方の略でさァ」

「どんな略し方だ!」

しかし隠し通すことに無理を感じたので、渋々、一週間だと答えた。すると予想外に総悟は目を丸くし、結構長いんですね、と言った。

「いや、一週間って短い方だぞ」

「二日ぐらいで帰ってくるのかと思ってやした」

「ンな暇じゃねーよ、向こうでやること山ほどあんだ」

「ほー」

「だからこっちの仕事増やすんじゃねーぞ」

「あー山崎のあたりに言っておきやす」

「テメーに言ってんだボケ!」

バレてしまったならあとは余計なことをしないよう釘を刺しておくしかない。まともに聞くとも思えないが何もしないよりましだ。この小言ともしばらくお別れかと思うと安堵がどっと押し寄せてくる。(しかし不安も同じだけあった。帰って来たときに変化が少ないことを祈る。改善は望まないが、せめて悪化はしないで欲しい。)総悟はまた無表情に戻っていて、飽きたのか部屋から出ていこうとしたので止めはしなかった。

「寂しいですかィ?」

唐突に問われ、問われたのかも微妙だったが、まあこの場には俺と総悟しかいないので俺に問うたのだろう、しかし振り向かない背中に答える。

「全く」

「そんな寂しがらないでくだせェよ、会いに行ってやりやすから」

「日本語通じてる?」

しかもどうやって、と続けると、総悟はくるりと振り返って、

「俺ァサイキッカーなんで」

などとほざき、出て行った。

「……いや襖閉めろよ」





幽体離脱で会いに行く
(おまえマジで出来そうだから怖いわ)
(出来やすよ)
(黙れ)



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お題は 落日 様からいただきました。
たぶん沖田さんは出来る。



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