(土方と沖田)



こうして文を書くのは何年振りになるでしょうか。元々私は筆不精で、遠く離れた姉にも文は出したことは数える程しか有りませんでした。文字で想いを綴るというのは何とも気恥ずかしく、又難解ですから。

皆様が用意して下さったこの屋敷は大変広く、私一人ではどうにも空白が多く感じます。たまに来るお手伝いさんは私に善くしてくれるので、あれやこれやと任せきりにしてしまい、いけません。最も善いのは、この辺りが武州と同じように静かだということです。時間がゆっくりと流れている様な気さえします。以前なら、其れが退屈だと感じていたのでしょうが、今では心地好いので、私も大人に成ったということでしょうか。

然し一つ気掛かりなことが有ります。其れは我等が局長のことです。お元気でいるのでしょうか?多忙なことは解っていますが、長い間顔を見ていないと不安になります。何しろ、私が抜けた真選組は腑抜けの集まりでしょうから、ちゃんと局長をお守り出来ているのか、其れが酷く心配です。出来ることなら、今すぐ駆けて行きたい程です。然し其れでは意味が有りませんから、こうして筆を執るしか無いのです。

最後になりますが、私の願いは只一つ。皆がきちんと生きてゆけることです。私は戦場で死ぬことこそ至高であると思っておりましたが、そうでは有りません。生きることこそ至高なのです。武士であろうと商人であろうと其れは紛うこと無き事実として其処に在るのです。忘れない様に。



「筆不精なんじゃなかったのかよ」

総悟を預けていた屋敷の押し入れから数えきれない程の文が出てきたのは、総悟の葬式が終わってから丁度三日後のことだった。何度かここに足を運び部屋の片付けを手伝ったこともあるのに一枚も姿を現さなかったその手紙は、書いた主が居なくなったのを見計らったように押し入れの奥で雪崩を起こした。

毎度の文句で「筆不精」と言うくせに、部屋は大量の手紙で溢れ返っていた。しかしどれも出された訳ではなく、あながち間違ってはいないのかもしれない。

手紙の内容はいつも同じ。病が発覚してから、自分を捨てずにこんな立派な屋敷に預けてくれて有難う。ここは武州に似ていて心地好い。近藤さんのことが心配である。生きることは何よりも大事。

一通位出せば、善かったのに。そうしたらきっと近藤さんだって走って行ったろう。止める松平を殴ってでもここへ来て、その栗色の髪を撫でて、痩せた肩を抱いたろう。変なところで気を遣うガキだった、そう、昔から。

文字はどんどんと歪み、墨が垂れた跡が目立つようになる。そんな状態になってまで書く位なら、出せば、善かった。

すると、たった一枚、色の違う紙が出てきた。大きさも他のものに比べて小さい。メモ帳程度だ。ゆっくり開き、その文字を追うと、俺は漸く泣いた。山崎が様子を見に来るまで、俺は延々と泣いていた。



きっと土方さんが出され無かったこの文達を見つけてくれるでしょう。貴方より後に逝くことが出来ずにすみません。私は貴方が好きでしたが、姉上のことは忘れないでいて。私のことはもう忘れて下さい。貴方という人は、本当に莫迦でどうしようもない人ですから、二人の命を背負って行く等と考えているのでしょうが、私は貴方に背負われるなんて真っ平ですから。姉上の墓に参った時に、ほんの少し、思い出して下さい。願わくは、あの日の様に、頭を撫ぜて下さい。此れからの貴方に幸福が多く有る様願います。





追伸、これはぜんぶ嘘です




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お題は 東の僕とサーカス 様からいただきました。



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