(坂田と初期沖田)



わたしもさ、ほんとうはもっとさ、好きとか愛してるとか言ってほしいけどさ、でもわたしたちって、そういう関係じゃないから。だけどわたしはどうがんばってもあのひとの隣には、立てないから。だって、女なのよ。性別が違うのよ。隣になんて立てやしないの。あのひとは女であるわたしに、見向きもしないの。


と、酒臭い女が愚痴るように親父に言うので、思わずそちらに目をやると見知った顔で驚いた。同時にしまったと思った。勘のいい女はすぐその視線に気づき、酔った目でこっちを見て、視線は絡み、「……あ」と小さく声を上げた。

「旦那じゃアないですか。冷たいなあ、一声かけてくれても良いでしょう」

「や、やあ沖田くん……俺もいま気づいたからさ」

「親父ィこのひとにも鬼嫁」

「いいいいや!いいです!俺もう帰るから、ネッ」

「つれないでさァ、一緒に飲みましょうや。親父わたしにも頼まァ」

完全に酔っ払っているようなので仕方なく覚悟を決め、椅子を近づける。女、というより少女の面影を残した彼女は、にんまりと笑ってまた酒を口にした。

「てか、保護者はどうしたの」

「マヨラーとゴリラのことですかィ?今日は置いてきましたよぉ、わたしもう18ですよ?大人でさー」

「あ、そ。大人はそんな潰れるほど呑まねえと思うけどね」

ちくりと刺してやると露骨にムッとした顔をするので、それもガキだなと思う。まあ酒のせいもあるだろうが。

「いいんでさ。今日は愚痴デーだから」

「さっきのもそれ?デッケー声で丸聞こえだったよー」

「盗み聞きなんて趣味わりい」

「おまえは口が悪い」

ぐい、と酒を煽る未成年を注意する義務も義理も俺にはないので、黙って同じように酒を流し込む。ガキのくせによくまあこんなキツい酒を呑むもんだ、保護者の教育はどうなってる。

「……性別が違うのって、本来喜ぶべきことじゃねーの?」

「さっきの話、ほんとに聞いてたんですねィ」

「だァら聞いてたんじゃなくて聞こえたんだって。隣に立って寄り添うんなら、男より女の方がいいだろ」

「わたしはね旦那、寄り添いたいわけじゃないんでさ。それにあの男はそんなの必要としちゃいない。あのひとにとって大切なのは帰りを待つ存在じゃあない、背中合わせで刀を振るう奴なんでィ」

直接名を口にせずとも、それが誰を指しているかはわかった。いつ見てもすれ違っている二人があまりに滑稽でため息をつく。沖田は隣で酒を煽る。

「結婚したいとか付き合いたいとか思わねーの?」

「思ってるに決まってまさ!わたしはあいつとチューしたり抱き合ったりしたいんでィ!あわよくば襲ってやらァ」

威勢よく叫ぶ彼女は羨ましいほどに若い。その若さを抑えるのに、閉じ込めるのに、どれほどの労力を消費しているのだろうか。

「でもあのひとは、そんなの望んじゃいねェ、それもわかってるんで。あのひとは、わたしの力を見てる。だからわたしは強くなくちゃ意味ないんでィ。強くないわたしに、あのひとは興味ないんでさ」

こんな風に自分を納得させるまで、どれほど時間がかかっただろうか。酒のせいで潤んだ双眸を下に落とし、束ねた髪が揺れる。まったく面倒な恋をしたものだな、と呆れる。まだ若いのに。

「……言ってやろうか?」

「何を、」

「愛してるって」

途端に彼女の目が冷え、急所に衝撃が来る。声にならない悲鳴を上げてそこを見ると彼女の足が行儀悪く俺の大事なそれを蹴り上げていた。

「セクハラ罪でチンコ蹴り上げの刑でさ。親父、おかんじょー」

「っ、っってめっ、っだれかケーサツ!ケーサツを呼べーっ!」

「生憎わたしが警察なんだなあ」

「うざっ!その喋り方うざっ!」

「旦那、さっきの話全部忘れてくだせェ。わたしは女以外にはなれねーから、仕方ありやせん」

とん、と小気味良い音を立てて金を置き、するりと店を出ていく。可愛いげの無い女、と酒をまた煽る。

(あんな若い子に自分の性別後悔させるようなまねしてやるなよ、人で無し)







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坂田は沖田にとって特別だといい、真選組とはまた違った意味で。坂田も坂田で、まだ年若いのに人を斬る沖田を若干自分と重ねている部分があって、目が離せないんだと思います。理想。



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