(沖田)



「お侍さん」後ろから声をかけられ、ゆっくりと振り返る。歳のころは五つぐらいだろうか、少年が、俺を見ていた。「お侍さんでしょう?」

どうして少年が自分を侍だと認識したのかわからない。なぜなら今の自分は普段の袴姿で、刀すら挿していないのだ。それに、初対面の人間が自分の顔立ちを見て人を殺すようだと判断するとは考えにくい。最も、少年はそのような意図を持って発言したわけではないようだったが。

「違ェよ」

「ええ、うそだ」

「嘘じゃねェ。自分のことなんでィ、自分が一番よくわかってら」

そうだ。自分のことは、自分が一番よくわかっている。自分が侍だと言えば侍だし、侍でないと言えば侍でない。その程度のものなのだ。少年は目をくりくりと動かしながら、でも、だの、やっぱり、だの、小さく呟いている。どこかで会っただろうか。否、隊服を着てこんな田舎に来たことはなかった。

「誰かと間違えてるんじゃねェかィ?」

我ながら尤もらしい理由だった。しかし少年は頷かず、訝しげにこちらを見ている。あのな、としゃがみ込みかけて、やめた。

「とにかく、俺ァ侍じゃねェんだ、悪かったな」

そのまま去ろうとすると、待って、と叫ばれた。渋々振り返ってため息をつく。

「あのな、何回聞いても同じだって」

「じゃあ、おにいさんはだれなの?」

誰、だと。そんなの決まっている。俺は沖田総悟だ。ずっと昔からそうだった。

「ほんとうに?」

当たり前だ。どこに疑うことがある。生まれたときから現在に至るまで沖田総悟として生きてきた。死ぬまできっとそうなのだ。他のだれかになるなんて有り得ない。

「ひとりで?」

「、」

栗毛の少年は俺を見ていた。ひとりでは、なかった。いつもそばに誰かがいてくれた。優しい姉上は先に逝ってしまったけれど、ずっと、誰かがそばにいてくれた。俺はそのとき確かにただの沖田総悟ではなかったのだ。

けれども今となっては、それは重い荷物であった。背負っていてはゴールまで辿り着けぬものであった。しかし棄ててしまってもまた、歩いて行けぬものだった。

「ひとりで、さみしくないの?」

少年は半ば泣いていた。俺は近づいて、頭をぐしゃりと撫でた。つるりと涙が一筋零れる。俺は笑った。

「ひとりにさせて悪かったな」

不安だったのだと思う。強がっていたのだと思う。夜が来るたび言い知れぬ恐怖に襲われた。けれども、棄てきれなかったものを拾い集めて、少しずつ、消化して、忘れようとした。それがただの逃げであることも知っていて、俺はそうした。

「一緒に行くかィ」

小さな手を取って、歩き出す。怖いものはもう何もないのだと、右手から伝わった。









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意味不明すぎるので解説を長々書いていたのですがわたしがこの話はこういうものだと押し付けるのはなんだかおかしいのでやっぱやめておきます。



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