(土方と沖田)



俺もアンタも一緒だね、素直になれないままだね、俺はアンタをたくさん責めたけれど、結局は俺も一緒だね、だって俺も、守りたかったものを何も守れないままで、こうやって情けなく死んでいくんだね、ああさぞかし、滑稽だろうね、だれか笑ってくれたらなら、せめて、報われもしたんだろうね、でも笑うひとはだれも、いないね、いなくなってしまったね、どこにも、いなくなってしまったね。


ごぽり、と、血が溢れて行くのがわかった。土方さんが、こちらに手を伸ばしている。なにやってんでィ。アンタも大怪我してんじゃねェか、と、悪態を吐こうとして口を開けるが、生暖かい液体が口の端から漏れるだけで声にならない。際限なく流れる俺の血が、地面を濡らして小さな湖を作る。腹を、斬られた。いのちが遠ざかることを感じていた。

靄のかかった意識の中で、俺は、ただ後悔していた。真選組として死ねることは幸福であったが、ただ未練がありすぎた。自由に生きてきたつもりで、その実、何一つ自由ではなかったのだ。縛り付けていたのは他でもない自分自身であったということが、なにより可笑しなことだろう。

ほら、あのひとのことも、きっと俺は好きだった。大嫌いだと突っぱねて来たあのひとのことを、きっと俺は、ずっと好きだった。けれど言えなかった。俺は、あのひとを嫌いでないといけなかったのだ。姉上を傷つけたあいつを許してはいけなかった。だから、知らないふりをした。遠く遠くへ追いやった。けれどもどうだ、こうして、死を目の前にして思い出すことはあのひとへの想いばかりで、後悔ばかりで、なんと滑稽なことか。

遠ざけて、遠ざけて、生きてきたのに、あのひとはこうして俺に手を伸ばす。そして俺はその手を、掴んでしまいたいと思っている。あわよくば、好きだと、言ってしまいたいとさえ。そう思うと、いままで生きてきた俺の人生はなんとも道化のようで、可笑しくて仕方ない。少し笑ってみると、また、血が零れた。

コンクリートに出来た俺の血だまりの中に、土方さんが腕を付く。すると、あのひとから流れ出た血が、腕を伝って俺の血と混ざった。くるうりと弧を描き、ふたつの血がゆっくりと、混じる。それを見て、俺は、ああ幸せだ、とさえ感じた。俺たちはなんと、遠かったのだろう。こんなにそばにいたのに、手と手を取れる距離にいたのに、なんと、遠かっただろう。一緒になるには、遠回り過ぎたのだ。

(ずっとそばにいたんだ、ずっとこがれていたんだ、おれはあんたをすきだったんだ、それを、みみもとでささやけるほどちかくにいたのに、おれはしらないふりをして、とおざけたんだ、とおざけたんだ、どうしてだろうか、こんなにもあんたといっしょになりたい、と、のぞんで、ねがって、いるのに、どうしておれたちはいっしょになれなかった、のぞんでは、いけなかった、ああ、ああ、そばにいたのに、ちかくにいたのに、どうしたってあなたは、とおい)





私はきっと指切りよりも遠い貴方を覚えていたかったのです



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お題は 自慰 様よりいただきました。
血が混じるのが好きです。まさにこういうシチュエーションで。死ぬ直前に、ああ、はやくからこうして一緒になっておけばよかったと後悔するのです。まあ、沖田はこのあと復活しますけど!生きてますけど!笑



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