※五年後ぐらい




よう、久しぶり、と言って声をかけてきたのは向こうからだった。彼は相も変わらず爽やかな笑みをたたえ大きな瞳でこっちを見た。変わったことといえば、綺麗な銀髪が少し伸びたことくらいだろうか。

せっかくだし、ということで、僕たち二人は近くの喫茶店に入った。学生時代にだって二人で喫茶店なんか入ったことはない。というより彼がひとりでいるところを見たことがなかったのだ。なぜなら彼のそばにはいつだって、

「そういえば、今日は男鹿はいないのか?」

右手に光る指輪を見ながら問い掛ける。学生時代からこの二人は見ているこっちが恥ずかしくなるようなことばかりやるから困る。

「あー、別れたんだよ」

「ああ、道理で……え?!」

「ナイスツッコミ」

こっちは思わず吹き出しそうになったというのに、彼は優雅にコーヒーを口に運んでいる。いや、ちょっと待て。別れた、ワカレタ?別れたってつまり、破局した?

「三木、すげえ顔」

「え、あ」

別れた。あの、男鹿と古市が。

「……冗談だろ?」

「へ?ああ、別れたっての?マジだよマジ、嘘付く必要がねーもん」

「……」

百歩譲って、百歩譲ってそれが真実だとしよう。そうだとしたら、古市はなぜこんなに普通なんだろうか?昔を思えば、もっと取り乱してもいいはずなのに。それほどあの二人は、素晴らしいパートナーだったはずなのに。

「別れた、って結構前のはなしだぜ?去年の……いつだっけ、四月?」

「……でも、指輪は」

「あーこれ?しばらくは女の子いらないからさ、これで牽制しとこうと思っただけだよ」

「……古市、つかぬ事を聞くけど」

「ん?」

「理由は、なんだ?」

ちら、と顔を見ると、さして驚いた様子もなかった。ただ少しだけ逡巡するような顔をして、それからへらりと笑ってみせた。

「んん、よくわかんね」

「……は?」

よくわからん?わからなくても別れられるのか?と困惑している僕を見透かしたように言葉を続ける。

「ある日突然さ、男鹿が、別れようって言ってきたんだよね。理由は言わなかったし、聞かなかった。それに男鹿が言うなら何か理由があるんだと思うし」

「……だから、別れたのか?」

「うん。男鹿は間違いを言わないから」

また笑う。そんなものなのか?それでいいのか?古市は、

「……まだ、好きなんじゃないのか?」

ぴた、と手が止まる。泣くか、と身構えるが、それはただのいらぬ思い過ごしだった。

古市はうっとりと、まだそこに男鹿がいるように微笑んで、


「おれは、あいつ以外を好きにはなれないよ」





「じゃあな、三木」

「またどこかで」

簡単に別れを告げ、古市は背を向ける。僕はその背中を見ながら考えた。男鹿はたぶん、古市のために別れを切り出したのだと思う。男鹿は酷く馬鹿だとは思うが、こと古市に関しては病的なほど大切にしていた。慈しんで、愛情を注いで。だからこそ彼には普通の人生を歩んで欲しかったのだろう。不良とも関係なく、同性愛とも関係なく。

だけど男鹿、君は本当に馬鹿だね。

不良だとか同性愛だとか、彼の前では意味をなさないのだ。彼に、古市にとって、世界は男鹿で男鹿は世界なのだ。古市は別れたその日から男鹿に会っていないという。家も近いのに連絡すらしていない。きっと彼は、男鹿が何かをしない限り何もしないつもりだ。

けれど、一生君を忘れることはないよ。

でなければあんな表情できやしない。古市は今でも、君に恋しているんだよ、男鹿。

(本当、くだらないカップルだ)

痴話喧嘩など早く終わらせてしまえばいいのに。ため息をついて空を見上げた。










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数年後パロ三木目線でした。雰囲気でサーセン。いつもか。

まあ結局ばったり会っちゃうんだけどね。元サヤEND乙
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