※古市にょた




優しいのは俺ではない。


「なあ、いい加減泣きやめよ」

「ぅる、さいっ!辰巳にはカンケーないっ!」

「大有りだろが」

その大きな瞳から涙をぼろぼろと零す幼なじみを見て、すこしだけ胸が痛い。その涙を止める術を知らない自分が腹立たしかった。

「辰巳はさ、あたしらのことっ、なんにも考えてないよね」

「、なに、どういう意味だよ」

「言葉通りだよばか辰巳!もう辰巳なんてきらい、だいっきらい!あたしのために喧嘩するなんて、ほんと、ばかだよ……っ」

だってそこに寝てる奴らがこいつの髪を蔑むから。己の腐った根性を棚に上げて汚いだの見窄らしいだの罵倒するから。

俺はこの髪が好きなんだ。この髪が太陽に反射してきらきらと光るのも知らない奴に、古市のことを何も知らない奴らにああだこうだ言われるのを黙ってみているくらいなら、死んだ方がよっぽどましだ。

こいつの綺麗さを知らない奴に、

「っ……辰巳、は、やさしいね」

つるり、涙が頬の上を滑り落ちる。それがどこまでも純粋な涙だということを俺は知っている。うまい言葉が口から出なかったので、俺はその細い体躯を力任せに抱きしめた。


優しいのは俺ではない。
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