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 そこは、白紙になっていた。

 いや違う。私の手の内に収まる一冊のコミック、その中のとある一ページ。そして正確に言うならそこは、完全なる白ではない。一応、吹き出しというものはある。その中には一つも言葉のない、ただの丸が。
 けど"その人物"によって埋め尽くされていたはずのそこから彼が消えて、すっきりぽっかり。一目見た瞬間には、そこが白紙になってしまったかのような錯覚を覚えた。
 それがあくまでも錯覚に過ぎないということは次のページぺらり捲り、何もない空間をサスケが見ているという不可思議な絵を見て確信できた。

 ぱちり、私はそこでようやくと視線を持ち上げる。
 そこにこにあったのは、赤。"NARUTO"――私の持つその単行本の中に本来描かれているべき、二つの赤い瞳だった。


私は特に泣いた訳でもない。ちゃんと見てなかったから細かいところは忘れてしまった。思い出せなかった。
だけど分かることもある。うちはイタチ…さん、ですよね?ああ。
目の前にイタチ兄さん。
ところで、目は。見えている…。ふーん、ま、いっか。
戻らなければ。急ぐことない。急いで死にに戻ることない。そこは白紙になっていた。いや違う、吹き出しはある。けどその人物で埋め尽くされていたはずのそこからその人物が消えて、すっきりぽっかり。次のページぺらり、何もない空間をサスケは見てた。
私は特に泣いた訳でもない。ちゃんと見てなかったから細かいところは忘れてしまった。思い出せなかった。
目の前にイタチ兄さん。
ところで、目は。見えている…。ふーん、ま、いっか。
戻らなければ。急ぐことない。急いで死にに戻ることない。

近くに美味しいお団子が売ってるんですけど。よし行こう。
こんなの団子じゃない…。三色、こっちじゃまず見ない。そもそも一つの串に団子は四つ付いてるのが一般的。団子四兄弟がメジャー。まあまあ、買ったのはみたらし、胡麻、きな粉(あん)。
二二で分けましょ。三一だろう。つかぬことを…。オレが三だ、当然。何でですか!寧ろ、全種類の団子を一つずつ味見できるだけでもオレに感謝するんだな。――団子になると偉そうだな…何で。って言うかそれ、私のお金で買ったんですけど。…。はあ、仕方ないなあみたいな感じ。ちょいちょい手招き。ぱっ、表情輝かせ駆け寄る。ちょん、もしくはデコピンびしぃっいったー!! 全然ときめかないんですけど。さっさと茶を淹れてこい、気の利かない…。アイアイサー!びしっ敬礼ダッシュ。写輪眼は反則。真っ赤って案外怖いものだ。
こぽこぽ…一人で染々考える。兄さんやっぱり悲劇の人。優しくしてあげよう。
できましたよー入りましたよー。しん。いない。はっとした悟った気がした。それは予感だった。嫌な。
縺れる指を懸命に動かしページを捲る。
…――ああ、こんなにも切なく悲しく優しい顔をしていたんだったっけ。
ずっとずっと優しいデコピンだったんだろう。
ぽろり、初めてそのシーンを見て初めて泣けた。涙が出た。困ったように笑った気がした。