足を動かさないで前に進めるって便利。

「なあシオン…。てめぇは少し俺たちのことを舐めすぎてねぇか…?」

「イたたたサソリさん、頭蓋骨さんが苦しげに悲鳴を上げているんですがッ」

「…聞いてんのかよ、うん」

 だけど体に悪いことっていけないことだと思う。だって骨にひびが入っちゃうのはいただけないよね。

「滅相もごさいませ…あ、間違えた。聞いてます聞いてますだから痛いっ!」

 進む道の先に見えたスーパー。あれ、私ここまでサソリさんに運んでもらっちゃった気がするぞ、宙ぶらりんで。
 そう、私は二人の息の合った愛の鞭という名の手刀を食らった後、何故だかこの状態のままお説教タイムに突入していたのだった。いやはや。

「おい、店はまだなのか」

「あ、あそこに見えてるやつがそうです。全速前進ー」

「…本当に学ばねぇのな、うん」

「あいたたたたた!!」

 助けてくださいサソリさまデイダラさまと三回くらい言ったところで、漸くと私の靴裏は地面を踏みしめた。うん。歩くってこんなにも大切なことだったんだね頭痛い。

「酷い頭の頭痛が物凄く痛い…」

「…どんだけ阿呆なんだ、うん」

「駄目ですねデイダラくん。これは分かってて言ってるウケ狙い何ですよ? これくらいは分かっていただけないと」

「爆発するか、うん?」

「公衆の面前で忍術ダメ絶対。ごめんなさい」

 デイダラくんからにっこり妙に迫力のある笑顔を見せられた私は、その眩しいスマイルにときめきつつもそっと辞退する。

 だってデイダラくんたちだって目立ったら困るんだよ、うん。これは私の優しさ。

「…何でてめぇはこう、もう少し危機感を持てねぇんだよ?」

 呆れた様子で呟いたサソリさんには、うんざりといった形容詞が丁度良い。
 私は仕方がないそろそろたまには真面目に話しておくか、と唇を開く。

「だって、お二人が思っていたよりもずっと優しかったので…」

「優しい?」

 どこか異国の言葉を初めて聞いたときのようにデイダラくんは意味が分からないといった様子で、その眉間に深く皺を刻む。私は未だに軋む感覚が消えない頭のサイドを擦りつつ、そっと静かに言葉を続ける。

「もっと警戒されても仕方がないかなと思ってたのに、随分フレンドリーに接してくれますし」

「そりゃ、一応オイラたちの面倒みてくれるって奇特な奴なんだからよ。うん…」

「…てめぇに殺気向けてたら、馬鹿らしくなってきたんだよ」

 もごもごとよく分からない弁解をしつつ照れてるデイダラくん。ぷいとそっぽを向いてしまったものの、きちんと返事を返してくれたサソリさん。

 ほら、やっぱり優しい。

「こんなにふざけてばっかりの私を、なんだかんだで殺さないでくれていますし」

「…………」

「…………」

 私は五十メートル先のスーパーを真っ直ぐに見据えつつ、まるで一人言のように言葉を繋ぐ。デイダラくんは少し先の地面を。サソリさんはどこか斜め上辺りの空を見上げていた。

「そして何よりツッコミがお上手です」

「そこか」

 瞬間的に返されたデイダラくんの声に、私はまた嬉しくなって僅かに口元を緩める。そして、堂々胸を張って宣言して見せた。

「素敵なツッコミがあるからこそ、ボケは輝けるんです」

「…ならツッコまなきゃ良いのかよ、うん」

 呆れた様子のデイダラくん。

「もっと激しくツッコんでやろうか?」

 にやりと意地の悪い笑みを向けてきたサソリさん。

「それ何かちょっといやかなりエロそうですね…遠慮しときます」

 私はただただ歩いていた。

「お前顔は悪くもないのに残念な奴だな、うん」

「そんなあ」

「照れてんじゃねーよ。貶されてんのが分かんねーのか」

「え? 今ののどこが?」

「残念すぎる!」

「だから、あんまり誉めないでくださいよ」

「…旦那。"残念"って誉め言葉だったっけ?」

「…知るか」

 ウィーンと独特の機械音を響かせ、左右に開いたドア。



お二人といるとあっという間で
ちょっとしいです




 私は二つの籠を両の腕に引っ掛けると、くるり後ろを振り返った。

「お二人とも、何か食べたいものはありますか?」

「おっ、何でも良いのか? それなら――…」

「あ、キャベツが安い。今夜はロールキャベツにでもしますかね」

「………」

 デイダラくんのジト目は別に怖くもないし、可愛いのでちょっとわざとさせたくなっちゃうかもしれない。




120107

 
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