「シオって何だ、シオって」

「はい…?」

「シオンで良いだろ。その方が呼びやすい」

「そう…ですかね?」

 デイダラくんが何度か馴染ませるように私の名前を数度呟いた後、不意にサソリさんが呟いたそんな横暴な台詞。何であだ名?と疑問には思ったものの、それはいつも大好きな友だちに呼ばれているのと同じだったので構わないかと軽く了承する。

「じゃあ、もう必要な衣類は全部選び終わりましたね?」

「おう」

「ああ」

 頷く二人に、私は座っていたベンチから腰を上げた。初めは『黙ってりゃまともに見えるから女避けに近くにいろ』との指令がサソリさんから下ったため痛い視線に堪えていたのだが、下着売り場に着いていったとたんサソリさんの手元をガン見し出したら額を小突かれて店から出されてしまったのだ。

 いやあれは小突くどころじゃない。軽く指銃だ。あ、漫画が違うや。

 それにしても果たして、デイダラくんとサソリさんはトランクス派なのかボクサー派なのか。はたまたブリ

「で、次はどこに行くんだ? うん?」

 …"バナナはおやつに入るか入らないのか"並みの難題に取り組んでいた私の思考を中断したのは、楽しげなデイダラくんの声。どうやら、異世界にいるという今の状況を楽しみ出したらしい。外を行き交う車に興味深そうな視線を向けていた。

「スーパーに行きましょう。今家に三人分の食料はありませんから」

「おし! どこだどこだ?」

 軽い足取りで進み出したデイダラくんのファッションは、暁のコートが嘘だったかのような現代風。凄く似合っていた。目立つ金髪を僅かながら隠すキャップが、可愛い。
 私は慌ててその後を追いつつ、ちらりと後方のサソリさんを振り返る。

 …うん、私と同じくらいの身長なのにあんなに脚が長いのか。いや、あれはきっとあのジーパンの所為だそうだそうに違いない。

「…どうかしたか?」

 にやり、と。私の思考を読んだかのように意地の悪い顔で笑ったサソリさんを見やり、私は素直に口を開いた。

「格好良いですね、サソリさん」

 まさか、私がはっきりとそんなことを言うとは思わなかったのだろう。サソリさんは面食らった様子だった。私は天の邪鬼ではないのだ。凄いとか綺麗だとか、感動したことに関しては素直に称賛を口にする。

「流石芸術家って感じで、お洒落です」

 今度何か見繕ってくださいよ、とTシャツにジーンズにパーカーという普段通りのラフな格好に身を包む私が冗談半分でそう言えば、サソリさんは小さく笑った。

「てめぇはもっと着飾れ」

 まあいつかな、という予想外の返事に私が目を丸くしていれば、むんずと私の手のひらが唐突に何かに包まれる。

「おい、早く行こうぜシオ!」

 デイダラくんのはしゃぎようをみていると、染々サソリさんは大人なんだなぁなんて考えてみた。繋がれたままの手でデイダラくんはずんずん先へと進んでしまうものだから私は咄嗟に後方へと身を捻り、サソリさんのその手を取った。

「!」

 驚いたように見開かれた紅緋色に、私は悪戯に笑う。

「ナンパ対策、これで完璧です」

 そんな見え透いた口実を発した私は、ゆらゆらと二人の手のひらに繋がる自身の両腕を揺らして見せる。

「うん…? て、おい。何してんだ…?」

 私とサソリさんという二人分の体重に減速したスピードを訝しく思ったのか、くると振り返ったデイダラくんは三人で長く繋がるその光景を見て微妙な表情を作った。
 それを確認した私はにやり、口端をつり上げる。

 そして次の瞬間――…ぐいっ、と。

「「!?」」

 クロスさせた両腕。勿論、そこに繋がれていた二人の体はその動きに引っ張られ――私の目の前で、ぶつかる。

 ナイスツーショ!

 内心で呟いた私は心の中でその光景にフラッシュを焚いてシャッターを切り、脳内メモリアルに永久保存する。
 なっ…、と二人が眉をしかめた隙に、私は一目散に走り出した。

「なーにお二人ともよろけちゃってるんですか! スーパーはこっちですよ?」

 言うだけ言ったら、後は全力ダッシュだ。私の命が危ない。
 勿論、日頃の運動不足+引きこもりが祟った私に二人が追い付くのは、ほんの一度の瞬きの後。二人揃って息のあった手刀を下ろしてきたものだから、私はまた内心ほくそ笑んだ。

 なんともまあ、仲のよろしいこって。

 …まあ、次の瞬間にはあまりの痛みに声もなく悶絶するはめになるのだが。



命を懸けて求む




 だけどあの光景は、この痛みの価値だけあったと思う。そのアクシデントでちゅーまでしなかったのは、惜しいところだが。
 そう思ってたらデイダラくんの透き通るブルーの瞳がギョロリと私の目を射抜く。

 …妄想する自由くらいは与えてくれないか、デイちゃん。




120103

 
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