「…大丈夫?」 「うん、さっき薬飲んだから多少はマシかな?」 最悪だ。最悪最悪最悪!イワンが私の前に座ったまま、心配そうに見つめているのが見えた。涙目の私は、彼の問いかけに返事をするのがいっぱいいっぱいで、彼を困らせたまま。 「ごめんね」 「え?」 「折角のお休みなのに、こんなんで…」 イワンはヒーローで、お休みなんて滅多にない。そんな彼と一日二人きりになれるなんて言うのは、本当に貴重な時間。それなのに、私はイワンの自宅の布団の上で、丸まって身動き一つ取れない。 「僕の方こそ、無理させちゃったみたいで…」 「イワンは悪くないよ。だって、今日のだってまだ予定より少し早いし」 「ナマエ、」 女に生れて、普段何の文句もないのだけれど、月に一度訪れるあれの日ばかりは心底恨んだりする。折角、今日のデートの為に色々計画立てたのに、全部台無しになってしまった。“こんなの”の為に。おまけにイワンにまで、散々心配させて、迷惑かけて、本当最悪。涙まで出てきた。 「ナマエ!?苦しいの?」 「あ、…ち、違うの。なんて言うか、申し訳無くなっちゃって」 「ナマエ…。僕の方こそごめん」 「何を?」って訊ねようとしたら、イワンが私の右手を握ってきた。私の手より少し冷たいイワンの手は、逆に心地よかった。 「僕は、男だからナマエの痛みとか全然判らないし、こんなに近くにいるのに何もしてあげることが出来ない…」 「イワン、」 握る手に力がこもるのが伝わる。また、心配させちゃったなって思う反面、イワンがこんなに私のことを思っていてくれているんだなって考えたら嬉しくなった。身体を起こすと、イワンが慌てて私の両肩を掴んで支えてくれた。 「有り難う。イワンは傍にいてくれるだけで、全然いいよ」 「で、も…」 「でも、そうね。ちょっとだけお願い聞いて貰える?」 「!僕に出来る事ならッ」 イワンの返事を聞くと、思い切り彼の身体の中に飛び込んだ。イワンは凄く驚いているみたいだけど、抱きついてきた私をしっかり受け止めて倒れることは無かった。「え?ちょ、…ナマエ!?」顔は見えないけど、イワンが慌てているのは声を聞けばすぐに判った。 「こうしている方が楽な気がするの。だから、ちょっとだけこうさせて」 我ながら大胆なことをしたものだ、と心の中で思う。ところで、こんなに強く抱きついて、イワンに私の心臓が凄いことになっていることが気づかれちゃうんじゃないだろうかって今更になって思った。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、イワンの腕が私の背中に回って、ギュッとした。 (冗談で言った筈のに、散々感じていた痛みが不思議と無くなっていた) |