短編 | ナノ


※学パロ


昼休み屋上。昼食はいつもそこで、俺はアルトリアと一緒だった。学食のあるこの学校は、殆どの生徒はそこで済ませる。広い中庭もあって、昼食にはもってこいの場所もある。屋上は意外にも人が少ないのだ。だからこそ、そこを好んでいつも昼食を摂っているのだが、俺達以外にもその場所で昼食を摂る生徒がいた。

「おや?珍しい、今日は一人なんだ」

給水塔横は、名字名前の特等席で彼女はいつもそこで一人、食事を摂っていた。こちらが見上げなければ、彼女の存在には気付かないその場所。しかし、名前からは屋上に誰が来ても見えると言う。俺はいつもの様に名前を見上げながら、彼女からの質問に答えた。

「アルトリアは?」
「アイツはギルガメッシュに追われてて、今日は別行動だ」
「見捨てたの?」
「それは語弊がある」

いつものアルトリアなら、それを振り切って俺と二人ここで昼食を摂るのが通例だ。たまに彼女を狙うギルガメッシュに着き纏われることもある(奴の場合、昼休み以外も常にだが)。今日は上手く振りきることが出来ないと見込んだアルトリアが、「私の所為で、お前の食事の時間を割いては申し訳ない」と俺を一人ここへ向かわせたのだ。そう、名前に伝えれば彼女は「なるほど」と出し巻き卵を食べた。

「追っかけ女子もいない」
「そう毎回追われている訳では、」
「あるでしょ?」
「………」

名前の言う通り、追い回されるのは何もアルトリアだけではない。押し黙ってしまった俺に、名前はクスクスと笑っている。

「前から思ったけど、ディルムッドはアルトリアと付き合わないの?下手な女子と付き合うより、皆諦めがつくかもよ?」
「彼女はあくまで友人だ。それに、俺にもアルトリアにもそんな感情は無い」
「ふーん…」

アルトリアは女子生徒でありながら、見方によっては中性的に近い容姿と、そこらの男子よりも紳士の様な振る舞いに、女子からの人気が高い。俺が女子生徒と話すと、その度に他の女子生徒の視線が厳しいのだが、アルトリアはそれが理由で別だった。
確かに、アルトリアとは結構仲が良い。クラスも同じ所為か常に一緒にいる。彼女は俺のことを純粋に友人として付き合える数少ない一人だ。

「それにそんなことになってみろ、ギルガメッシュに何されるか」
「あはは、そっか」

俺の言った意味をすぐに汲んだ名前は笑った。

「なぁ、そっちで一緒に食べても構わないか?」
「え?いつもしないじゃん…まぁ、今日くらいは良っか」

名前はいつも一人、そこで昼食を摂っていた。俺とアルトリアが初めて会った時からずっと。何度か誘ったこともあったが、その都度名前は断り、一人給水塔を背凭れに一人食事をしていた。だから、この返事が来るのは正直予想外だった。その前にも何度か、俺やアルトリアが一人でここへ来ることはあった。その時も勿論、同じことを言ったが名前は断っていたのだ。

初めてきた名前の隣。クラスが違う所為で、たまに廊下で擦れ違う程度の名前をこうして間近に感じるのは初めてだった。思っていた以上に小柄で、細い。決して不健康とか、そう言うのとは違う。アルトリアと大して変わらないかもしれないけど、名前の方が女性特有の丸みもある。不意に名前がこちらへ視線を向けてきた。しまった、つい見つめ過ぎていたか。急に緊張し始めた心音が煩い。

「なに?どうしたの?」
「いや―――名前はいつも一人だが、その…いないのか?」
「んー?」

実を言えば、アルトリアがギルガメッシュに追われていると言うのは嘘だ。いつもの様にアルトリアと一緒に屋上へ向かおうとした時、急に彼女が「今日は、アイリスフィールと摂る約束をしたから一人で行ってくれ」と言われたのだ。急に言われた言葉に驚いて、理由を聞こうと思ったが彼女の目を見たら判った。これはアルトリアなりの気遣いだと。

折角アルトリアが設けた機会を無駄にするつもりはなかったが、思いのほかことが急展開だった気がする。本当はもっと順序立てて会話するつもりが、気付けば後半で話す内容(の予定)だった言葉が出てしまった。撤回しようにも、名前は俺の言葉に思案していて今更無理だった。

「いないよ。あ、でも好きな人ならいるよ」
「そう、か」
「そういえば、今日そのことで嬉しいことがあったから聞いてくれる?」
「あぁ」

正直言えば、聞きたい様な、聞きたくない様な。恋慕の相手も同じような思いを持つ人がいると聞いただけでも、充分なダメージだと言うのに、更にその男の話を聞かされるとは。けど、楽しそうにする名前の気持ちを無下にすることが出来なくて、俺はこれから来るさらなる精神ダメージに身を構えた。

「実はその男子って言うのが、凄いモテる人でさ。それだけでも困りものなんだけど、その男子には凄い仲の良い女子がいるの。その女子がまた凄く良い人で、正直、彼女相手じゃ私は叶わないだろうなって思ってたの」

どこかで聞いた様な間柄だ。名前はさっきまでこちらに向けていた顔を正面へと向けていた。

「ところが、どうやらその二人の間には恋愛感情が無いことが今日、判明したのだよ」
「…名前、」

高なった心臓に、その答えを求めるべく名前に問えば、彼女は相変わらずこちらを向いていない。
俺への返事をしないまま、暫くして名前は置いていた箸を再び手に取るとからあげを一口。食べる動作の拍子に見えた彼女の耳は驚くほど赤かった。


乙女は奪われることを待ち望んでいました
(今ここで抱きしめたら、何と言うだろう)

(早くしなさいよ、馬鹿…ッ!)




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