追憶 | ナノ

06


「ソラウお義姉様」

夕方。屋敷に戻ると使用人から、ケイネスお兄様の婚約者である、ソラウお義姉様がいらしてると聞かされ、客間へ向かった。扉を開けると椅子に座ったお義姉様がいた。

「…ケイネスは?」
「お兄様はまだ時計塔での用が済んでいないとのことで。私だけ先に帰りました」
「…そう」

ソファに座っていたソラウお義姉様は立ち上がり、私の方――正確には扉の方へと向かって歩き出した。何かお兄様と約束されていたのかと訊ねると、違うと返事をされた。大した用でもないらしい。

「ところでナマエ。あなたケイネスのサーヴァントは知っていて?」
「はい。ランサー、ですよね?誠実そうな方でした」
「―――そう」

ドアノブに手をかけたままのお義姉様の質問に私は答えると、特に興味もなさそうに返事をされてそのまま出て行かれた。

ケイネスお兄様はソラウお義姉様のことをとても慕っていらっしゃる。だから私は何も言わないでいるけど、私は時々あの人が何を考え、思っているのか判らない時がある。

「(それに、今あの人はランサーの―――)」

ソラウお義姉様は今度の聖杯戦争で、ケイネスお兄様と一緒に日本へ行かれる。お義姉様は、ランサーへ魔力供給をする重要な役割があるから。

「(魔術に関して、私は何も判らないから言うことは出来ない。それに、これはお兄様が考えたこと)」







「ソラウが?」
「はい、急用ではないようでしたので、すぐに帰られましたが…」

その後、お兄様がお戻りになったので、私はお義姉様のことを話した。話すと言っても、用事も言いつけられていないので、大したことは言っていないけど。お兄様は「そうか」と話を聞いて、私が用意した紅茶を飲んだ。

「ランサーも、どうぞ」
「いえ、お気遣いは」
「もう淹れてしまいましたし、どうぞ」
「ランサー、ナマエがわざわざ淹れてくれたのだ。断るなど…」

始めは断っていたランサーだけど、渡してしまえば彼はそれを断ることはしない。最後のお兄様の言葉もあったのかもしれない。

「…!」
「気に入って頂けたみたいですね」

先日のスコーンも、今淹れた紅茶も気に入って貰えて嬉しくて笑えば、ランサーも小さく笑ってくれた。その隣で、お兄様が詰まらなそうにしているのが判って、お兄様に「お兄様が好きな茶葉ですものね」と声をかければ、慌てた様に返事をした。

―――あぁ、こんな日がずっと…




「確か、日本へは明後日…でしたね」
「そうだ」

こんなにも、穏やかに感じる日々は残り僅か。お兄様は散々心配する私に、「何の心配も必要ない」と話してくれた。でも、ランサーから聞いた話では、簡単なものでもないらしい。

「ケイネスお兄様。私、やっぱり―――」
「聖杯戦争は大体、二週間程度でことが終わるらしい。それまでの留守、頼んだぞ。ナマエ」

私が全てを言う前に、お兄様が私の言葉を遮って言った。お兄様の瞳が真っ直ぐに私をとらえている。
あの瞳は、普段私とお話をしている時の優しいものではない。魔術の研究をしている時、時計塔で講義をしている時、

子供の頃、私を諭す時にする瞳―――


そんな瞳で言われてしまったら、言いたかったことが全く言えなくなってしまいます。

「―――はい、判りました」


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