追憶 | ナノ

05


「本当に頂いて宜しいのですか?」
「はい、お口に合えば良いのですが」

ナマエに呼ばれて彼女の部屋へ行くと、テーブルにティーセットが用意してあった。その中の一つであるスコーンは、ナマエの手作りで、俺に食べて欲しいと言うことだった。

「…旨い」
「本当ですか?」
「あぁ、凄く」
「良かった!」

前から思っていたが、ナマエの表情は子供の様に純粋だ。普段、何気なく見かける姿は、歳相応の女性らしい姿だと言うのに、時折見せる表情は普段のそれとは全く違っていて、驚かされる。

不意に膝に重みを感じて見れば、白い塊が俺の上にあった。見覚えのあるそれを見つめていれば、むこうも俺の方を見て、のんびりと鳴いた。

「ダイアナ!?ランサーが困るから、退きなさい」
「構いません」

喉を撫でれば、気持ち良さそうに目を瞑った。

「ダイアナは、本当はお兄様の使い魔にする筈でした」
「筈、と言うと?」
「私が、この子を気に入ってしまって。ダイアナも、私に懐いてしまったので、お兄様が私にそのまま」

ナマエが「ダイアナ」と呼べば、ダイアナは俺の膝からナマエのへと移った。俺の上にいた時も、大人しくはあったが、ナマエの方は安心しきっているのだろう。何度か身体を擦り寄せたかと思うと、すぐに丸くなって眠ってしまった。

「お兄様とは、どうですか?」

不意に出たナマエの質問に、俺はすぐ答えが出なかった。きっとほかの質問であれば、すぐに答えたかもしれない。俺の様子を見て、ナマエは苦笑した。どう思っているのか、判っていたのかもしれない。

「嫌いにならないで下さい」
「え?」
「お兄様は、良い人です。ただ、それを判って貰うのに時間がかかるだけ」

膝の上で眠るダイアナを撫でながら、ナマエは言った。その表情は純粋さの中に、どこか聖母の様な優しさがある様に感じる。

「本当にケイネス殿のことを慕っていらっしゃるんですね」
「勿論。大事な兄ですから。だから、―――」

ダイアナへと向けていた視線を俺へと向けた。横顔よりも、なお一層感じた聖母の様な表情は、自然と俺の心を引き付ける。輝く青い瞳も、揺れる金髪も、滑らかな素肌も、全てその表情を引き立たせるもののようだった。

「私は、ケイネスお兄様も、ランサーのことも大好きですから、お二人には良い関係でいて欲しいと思ってます」

話す前より、微かだが憂いを帯びた瞳。ナマエは、何を言いたかったのだろう。今言った言葉とは違うことを言いたかった筈なのに、それを言わず俺とケイネス殿のことを話す。
俺がそれを聞こうかと思った丁度その時、ナマエはダイアナを膝からそっと下ろし、立ち上がった。

「お茶もスコーンも無くなってしまいましたし、お茶会はここまでとしましょう」

立ち上がった時、さっきまで見えていたナマエの顔が見えなくなった。そして、次に振り返った時、ナマエが俺に見せた表情は、子供の様に純粋で、愛らしい笑顔だった。


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