01 「ランサー、おはようございます」 鈴を転がした様な、と言う比喩があるが、彼女の声はまさにそれだった。 俺が彼女に挨拶を返すと、小さく笑った。その笑顔は、華やかと言うより、愛らしい。バラと言うより、ニューヨークデージーに似ている。 「いよいよ、ですね」 「はい」 「お兄様は日本は初めてですし、況して、目的も…」 「ナマエ」 愛らしい表情が一変。陰りの入るその様子に、俺は咄嗟に声をかけた。「はい」先程までのはっきりとした声ではないが、相変わらずその声は心地良い。 「ケイネス殿のことは、このディルムッドにお任せを。勝利と共に、ナマエの元へと戻って参ります」 「―――はい」 はっきりと、今度は鈴が鳴った。窓から射す朝日は、彼女の瞳を、髪を輝かせる。主と全く同じ色をした妹。西洋人では珍しくも無い姿だと言うのに、俺は魅せられていた。 「ケイネスお兄様のことをお願いします」 それが俺が彼女と交わした最後の会話だった。 主と主の婚約者、そして俺。三人を見送るその表情は、笑ってはいたが、どこか寂しく、悲しげだった。 俺は彼女との約束を思い出し、そして思った。 あの約束が果たせた時、きっと彼女は俺のことをいつか見たあの笑顔で、迎えてくれるのだろうと――― |