青春謳歌! | ナノ


06




「有り難う。おかげで助かったよ」
「別に、大したことじゃないよ」

クロエが案内したのは雑貨屋だった。何でも日本物のデザインされた雑貨や小物が売っているらしい。こんな場所に店があるなんて知らなくて、色んな日本の物が並んでいてクロエとは別の意味でドキドキした。

「周りに日本好きな人がいないもんで、凄い困ってたの」

僕が呼ばれたのは、クロエの友達のプレゼント選びだった。日本好きの男の人らしくて、どんな物をあげれば良いか悩んでいたらしい。
日本好きは良いんだけど、クロエからプレゼント…羨ましい。

「あ、ちょっと待ってて!」
「え?」

そう言ってクロエは近くにあった売店へと行った。暫くして戻って来ると、手にはコーヒー。「今日のお礼」と差し出されて、僕はお礼を言ってそれを貰った。つくづく彼女には何かと奢って貰っている様な気がする。

「それは?」
「あ、これ?」

コーヒーとは別に雑誌を買ったみたいで、僕が訊ねるとクロエはその表紙を見せた。見覚えのあるタイトル誌と表紙の人物。「見かけたから、つい買っちゃった」そう言ってクロエは嬉しそうに笑った。

「クロエ、ヒーロー好きなの」
「当り前じゃない!ヒーローがいるからこの街も平和なんだし」
「そうだね。…あのさ、その、好きなヒーローとかいるの?」
「え?」

言って後悔した。一瞬でも、クロエの口から自分の名前が呼ばれたら、なんて思った自分が凄く恥ずかしい。ランキングはいつも最下位だし、見きれているだけの僕をクロエが好きなんて言う筈ないのに。やっぱり聞かなかったことにして―――

「一番は、スカイハイ!」
「へ、へぇ」

予想していたのに、心が沈んだ。
多分、今まで見た中で一番瞳が輝いていたんじゃないかって言うくらい、活き活きとクロエが答えた。今度、スカイハイさんに擬態して彼女の前に現れたら、喜んでくれるかな?(僕、今凄い恥ずかしいこと考えてた)

「イワン君は、やっぱり折紙サイクロン?」
「え?」
「日本物好きでしょ?」

そう言ってクロエは僕のスカジャンを指した。日本文化は凄く好きだ。でも、今聞かれているのはそっちじゃなくてヒーローの話。クロエは僕の返事を待っているようで、こちらを見たままだった(あんまり見られると緊張する…)。

「…うん」
「やっぱり!」
「でも、折紙サイクロンなんて格好悪いよね。いつも見きれてばかりだし」

自分で言って情けなくなってきた。でも、事実だし否定も出来ない。

「そう?私は好きだよ?」
「え?」
「確かに、他のヒーローと比べたらあまり目立っていない気もするけど、ほら」

クロエが見せたのはさっき買ってきた雑誌のあるページ。中間ポイント成績が乗っていた。僕の順位は勿論最下位。クロエが好きだって言ったスカイハイとは、とてつもなくポイント差が開いている。「ここ見て!」クロエが指したのは折紙サイクロンのポイント。

「ちゃんとポイントとっているでしょ?やり方は他と違うかもしれないけど、彼だってヒーローなんだって私は思うよ」
「…有り難う」

自然と出てしまった言葉に、クロエは不思議そうに僕を見つめて「何でイワン君がお礼言うの?」と言った。それを言われて初めて自分が何を言ったのか気づいて、何と誤魔化そうか考えてしどろもどろしていたら、クロエに笑われた。



 
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