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「有り難う。おかげで助かったよ」 「別に、大したことじゃないよ」 クロエが案内したのは雑貨屋だった。何でも日本物のデザインされた雑貨や小物が売っているらしい。こんな場所に店があるなんて知らなくて、色んな日本の物が並んでいてクロエとは別の意味でドキドキした。 「周りに日本好きな人がいないもんで、凄い困ってたの」 僕が呼ばれたのは、クロエの友達のプレゼント選びだった。日本好きの男の人らしくて、どんな物をあげれば良いか悩んでいたらしい。 日本好きは良いんだけど、クロエからプレゼント…羨ましい。 「あ、ちょっと待ってて!」 「え?」 そう言ってクロエは近くにあった売店へと行った。暫くして戻って来ると、手にはコーヒー。「今日のお礼」と差し出されて、僕はお礼を言ってそれを貰った。つくづく彼女には何かと奢って貰っている様な気がする。 「それは?」 「あ、これ?」 コーヒーとは別に雑誌を買ったみたいで、僕が訊ねるとクロエはその表紙を見せた。見覚えのあるタイトル誌と表紙の人物。「見かけたから、つい買っちゃった」そう言ってクロエは嬉しそうに笑った。 「クロエ、ヒーロー好きなの」 「当り前じゃない!ヒーローがいるからこの街も平和なんだし」 「そうだね。…あのさ、その、好きなヒーローとかいるの?」 「え?」 言って後悔した。一瞬でも、クロエの口から自分の名前が呼ばれたら、なんて思った自分が凄く恥ずかしい。ランキングはいつも最下位だし、見きれているだけの僕をクロエが好きなんて言う筈ないのに。やっぱり聞かなかったことにして――― 「一番は、スカイハイ!」 「へ、へぇ」 予想していたのに、心が沈んだ。 多分、今まで見た中で一番瞳が輝いていたんじゃないかって言うくらい、活き活きとクロエが答えた。今度、スカイハイさんに擬態して彼女の前に現れたら、喜んでくれるかな?(僕、今凄い恥ずかしいこと考えてた) 「イワン君は、やっぱり折紙サイクロン?」 「え?」 「日本物好きでしょ?」 そう言ってクロエは僕のスカジャンを指した。日本文化は凄く好きだ。でも、今聞かれているのはそっちじゃなくてヒーローの話。クロエは僕の返事を待っているようで、こちらを見たままだった(あんまり見られると緊張する…)。 「…うん」 「やっぱり!」 「でも、折紙サイクロンなんて格好悪いよね。いつも見きれてばかりだし」 自分で言って情けなくなってきた。でも、事実だし否定も出来ない。 「そう?私は好きだよ?」 「え?」 「確かに、他のヒーローと比べたらあまり目立っていない気もするけど、ほら」 クロエが見せたのはさっき買ってきた雑誌のあるページ。中間ポイント成績が乗っていた。僕の順位は勿論最下位。クロエが好きだって言ったスカイハイとは、とてつもなくポイント差が開いている。「ここ見て!」クロエが指したのは折紙サイクロンのポイント。 「ちゃんとポイントとっているでしょ?やり方は他と違うかもしれないけど、彼だってヒーローなんだって私は思うよ」 「…有り難う」 自然と出てしまった言葉に、クロエは不思議そうに僕を見つめて「何でイワン君がお礼言うの?」と言った。それを言われて初めて自分が何を言ったのか気づいて、何と誤魔化そうか考えてしどろもどろしていたら、クロエに笑われた。 |