04 |
「さっきはごめんね。そっちよりも早く買えると思ったんだけど」 彼女に連れてこられたのは、公園だった。まだ明るい時間帯だから人も結構多い。僕達は空いているベンチにかけた。僕がコーヒーを差しだすと彼女はお礼を言って受け取り、代わりに彼女が持っていた紙袋を渡された。 「プレッツェル…?」 「甘いの嫌いだった?」 「そんなことは、」 「良かった。このプレッツェル、コーヒーとの組み合わせ抜群なの!」 そう言って、彼女は自分が買って来たプレッツェルと僕が買って来たコーヒーを嬉しそうに食べた。彼女に言われるまま、僕も試しに食べてみる。確かに、美味しい…! 視線を感じて隣を見ると、彼女が「ね?」と楽しそうに笑った。 「でも、これだと君へ、」 「クロエ」 「え?」 「私の名前は“君”じゃなくて、“クロエ”。君は?」 「イワン、です」 クロエ。彼女にピッタリの名前だな。って本当は言いたいけど、恥ずかしくて言えない。自分の名前を言うのが精一杯だった。クロエはまた笑っていて、本当に笑顔が似合う人だなって思う。 「それで?」 「え?な、に?」 「さっき、何か言いかけてたでしょ?」 「あ、いや。僕がお礼する筈だったのに、結局クロエにご馳走してもらって…」 僕が買って来たコーヒー二つよりも、クロエの買ったプレッツェルの方が高い(そこまで大きな差がある訳じゃないけど)。お礼がしたくてずっと捜して、いざお礼をしたら結局彼女に奢って貰っていて、何がお礼だか判らない。クロエはそんな僕をまた不思議そうに見つめていた(今更だけど、大きくて綺麗な瞳だな)。 「コーヒーはあの時のお礼でしょ?これは、こうして話に付き合って貰っている私からイワン君へのお礼」 「僕への?」 「そ、」 眩しいばかりの屈託の無い笑顔。僕の心臓がまた大きく鳴ったのが判った。 クロエと会ってまだ十数分しか経っていないけど、判った。ファイヤーエンブレムさんに言われた時はまだ自分の中で整理出来てない部分があって判らなかったけど、今なら判る。 僕は、クロエに恋をした――― ☆★☆★ 「何かあったのかい?」 「どうして?」 「今日はいつになく機嫌が良さそうだ」 夕食を兄さんと一緒に食べていると、不意にそう言われた。そんなつもりはなかったけど、顔に出ていたのかな?それとも、兄さんだから気付いたのか。 「この前、人助けしたって話覚えてる?」 「あぁ。あの犯人を捕まえたって言う」 「実はね、今日その時助けた人にたまたま会ったの」 兄さんに再会した時の話をした。 あの時は、犯人のこととか、初めて捕まえた(その時は兄さんに危ない!って注意された)って言う喜びと驚きで、イワン君のことはそこまで印象は無かった。でも、今日会って話してみて凄く優しい人だったし、ちょっとカッコいいかなとか思った。 「そうか、それは良かった!それは」 「うん。また今度ゆっくり話が出来れば良いなって思う」 |