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ブルネットの少女に出会ってから数日。ヒーローの皆に色々と相談やアドバイスを受けたけど、結局彼女と再会することはなかった。 皆は僕が彼女に恋をしているって言っているけど、果たしてそうなのか、今一つ分からない。確かに、彼女には会いたいって思う。また、あの笑顔が見たいし、声が聞きたい。でも、それはやっぱりお礼が言えてないから会いたいからじゃないのかな…? スカイハイさんのアドバイスを参考に今日も僕は彼女と出会った道を歩く。今日“も”ってことは昨日も歩いていた訳なんだけど。こうして時間があるとそこにばかり足が進んでしまう。 「痛ッ」 「あ、ご、ごめんなさ…い?」 「私こそ、余所見してて…あら?」 あまりのことに言葉が出てこなかった。こういうシチュエーションと言うのは、漫画やドラマの世界だけだと思っていた。癖のあるブルネットの髪がふわりと揺れて、彼女は僕を見つめている。 心臓がありえないくらいの速さで鳴っていた――― 「あなた、この前の」 「あ、あのッ」 「もう後ろポケットに財布しまってない?」 「え?」 慌ててポケットを触ると、クスクスと笑い声が聞こえた。慌ててそっちを見ると彼女が笑っていて、その時漸く彼女にからかわれたんだと気付いた。彼女と目が合うと「ごめん、ごめん」と謝られた。からかわれているのに、笑っている姿はやっぱり可愛いなとかそっちの方に気が向く。 「この辺に住んでいるの?」 「いや、その、君に会い…たく、て」 「私に?」 「あの時僕、お礼出来なかったから」 「お礼?」 僕の言葉に不思議そうな表情で見ている。僕はと言うと、緊張が今だ続いていて、心臓が早くなり過ぎて倒れるんじゃないかって思うくらいだった。 「そんなの良いよ!別に大したことじゃないし」 「で、でも!…」 「うーん…あ、そうだ!」 かなり押しつけがましい気がした。これじゃ逆に迷惑じゃ…? そう思っていたら、彼女は突然何かを思いつたかの様に顔を明るくして、視線を横に向けた。彼女が向けた先を追うように、僕も視線を横へ向けると、そこにはコーヒーショップ。 「丁度コーヒーが飲みたいなって思ったの」 「…それだけ?」 ちゃんとしたお礼を考えていなかったから、彼女が希望したお礼をしようと思ったけど、それはコーヒー一杯だった。こんなで良いのかと思ったけど、「良いでしょ?」ってまた笑う。笑う度に揺れるブルネットの髪はキラキラと光に反射して綺麗だった。 「じゃあ、ちょっと待ってて」 「うん。あ、コーヒーは二つね!」 「二つ?」 「自分の分もあるでしょ?」 当然の様に言う彼女。「君さえよければ、少しどう?」そう言って誘う彼女に少しだけ落ち着き始めていた心臓が、また早くなったのが判った。お礼だけを言う筈だったのに、彼女を前にしたらそれ以上に彼女と一緒にいたいなって思って、そう思ったら彼女の誘いを断る理由なんてどこにもなかった。 「ごめん、遅くな、…て」 コーヒーショップは思っていたよりも込んでいて、コーヒー二杯を注文するにもやっとだった。両手にコーヒーを持って彼女の待っている場所に到着すると、そこには誰もいなかった。場所を間違えたのかと思ったけど、近くを見てもやっぱりいない。 もしかして、と嫌な予感がした。それと同時に自分がしてたことが凄く恥ずかしくなって。 「ごめんね!遅くなっちゃった」 「!!」 「お店思ったより込んでて…」 そう言って人混みの中から現れたのは、あの子だった。驚きと安堵が混ざった感覚。 本当は「何処に行っていたの?」とかさっき会った時には持っていなかった紙袋が気になって「それは何?」とか聞きたいことがったけど、それよりも先に空いた手で彼女が僕の手を引いて「行きましょ」と笑うから、また何も言えなくなった。 |