01 |
今日はオフだったから、出かけることにしてみた。特に行くあてはなかった。偶の休みだし家でゆっくりってのも考えたけど、何故か僕は出かけたいと思って今こうして街を歩いている。 スーツ姿で慌ただしく歩くサラリーマン、制服姿でクレープを口にして楽しく話をしている学生、ベビーカーを押して買い物を満喫の主婦、まさに平日の午後の様子で――― 「ぅわッ!?」 「ッ何処見てんだよ!」 「す、すみません…」 余所見をしていたら、正面から歩いて来た人にぶつかった。僕よりも背が高くて、がたいがいいドレッドヘアの男。目つきなんて、ホント鋭過ぎる…。元々こっちが余所見してた訳だし、ここは素直に謝れば済む。ドレッドヘアの男は舌打ちをして僕を避けて歩き出した。 ―――あれ?今、笑って…? 「ちょっと!そこのアナタ!」 声が聞こえたのは僕の後ろ。驚いて振り向くとブルネットの少女がこっちを指さして立っていた。 え?僕、何かした?驚いて、わたわたしていると少女は「君じゃない!」と始めと同じ凛とした声を発した。 「君じゃなくて、そっちの!今、その人から財布掏ったでしょ!?」 「え!?」 彼女の差したのは僕にぶつかったドレットヘアの男の傍にいた別の男。男は突然現場の登場人物に入れられて驚いていた。 その時、ドレットヘアの男が舌打ちしたのが聞こえた。多分、あの子には聞こえていない。ブルネットの少女はカツカツとヒールを鳴らして近づいて来ていた(す、凄い高いヒール!?)。 「その人にぶつかって気を取られている隙に、盗もうって魂胆だったんだろうけど、私にはお見通しよ!」 「何言ってんだぁ?俺はこんな男知らねぇぜ」 「とぼけたって無駄よ!まぁ、いいわ。とりあえず、アナタはポケットの中を見せて」 今度は再び隣にいた別の男に身体の向きを直して右手を差し出した。男は目を丸くして驚いている様子で、ポケットにしまったままの両手を出そうとしない。「早くしなさい!」ブルネットの少女が催促すると、男はドレットヘアの男をチラリと見た。 「チッ…どけッ!!」 「あ!?待ちなさい!!!」 突然ドレットヘアの男が振り返って僕を押し退けると走り出した。それと同時に別の男も走りだす。僕はその場にバランスを崩して倒れ込んだ。 あまりのことに頭がついていかず、座り込んだまま逃げていく男達を見る―――あ、しまった財布!? 「逃がさないんだから!」 「はい、これ」 その後はあっという間だった。あのブルネットの少女が凄い速さで男達を追いかけて(しかも凄い高いヒールの靴を履いているのに)、見事な飛び蹴りをかまして倒すと、気絶している隙に警察を呼んだ。そして現在、僕の財布を掏った男達はパトカーの中。 「でも君も気をつけなきゃ。財布を後ろポケットにしまうなんて危ないよ?」 「え、は、はぃ」 「この街にはヒーローがいるけど、こういうのはすぐに対応しなきゃ、でしょ?」 「(僕、そのヒーローです)」 「まぁ、でも。とりあえずは一件落着ってことで!」 そう言って笑う少女の顔は凄く可愛くて、文字通り僕は息を飲んだ。さっきは犯人を捕まえるから睨みを利かせていたけど、普通にしていれば凄い大きくて綺麗な瞳だ。肌は日焼けとかしたこと無いんじゃないかって言うくらい白くて、少し癖のあるブルネットの髪は、さらさら風に揺れて光の当たり具合ではキラキラ輝いていて―――、 「…いっけない!私こんな所にいる場合じゃなかった!」 「へ?」 「どうしよう!?あ、ごめんね!私待ち合わせしているから、これで!」 「え、あの…」 僕の呼び止める声も聞かずブルネットの少女は再び走り出した。「気をつけるんだよー!」ってあの凛とした声と一緒に手を振って。 僕は結局彼女にまともなお礼も出来ないまま、見送ってしまった。せめて名前だけでも聞いておけば良かったかな?あ、あと出来れば連絡先も。そうすれば今度ちゃんとお礼も出来そうだし、それにまたあの笑顔が見れる―――あれ?今、僕… |