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「やあ…!」 「…こんばん、は」 二度と会うことなんてないと思った。 指定されたダイナーへ着くと、キースは既にいた。入口をずっと注意していたのか、私が入るとすぐに立ち上がって呼んだ。 「ごめんなさい、待たせて」 「いや、構わない。あ、何か注文は?」 「えぇ。じゃあ、コーヒー」 ボックス席で待っていた彼の正面の席に着く。 暫くして、店員がコーヒーをテーブルの上に置いた。お世辞にも美味しいとは言えない。 昼間、ポセイドンラインでの会議に参加した帰り、突然声をかけられた時は正直驚いた。恐らく、二度と会うことなんてないだろうと思っていた人物とこんなにも早くに再会するなんて。 驚いた私とは正反対に、彼は嬉しそうにこちらへ声をかけてきたし、一体どういうつもりなのか。 「しかし、驚いた。まさか、ファーストが会社に来ていたなんて」 「今度の企画でポセイドンラインの協力をお願いしたの。貴方こそ、あそこの社員だったのね」 「あぁ、と言っても私は…あ、いや、何でもない。何でも」 「?……で、話って?まさか、このことじゃないわよね?」 彼から「話がある」と言われた。まだ勤務中だったし、仕方なく夜会うことにして現在。昼間会った時はあんなに積極的(それとも緊張してたのかしら?)だったのに、今は打って変わって。用件をいつまでも先延ばしにされるから仕方なく、こっちから声をかければ、慌てだすし… 「その、だね…あの日、いくら酔っていたとはいえファーストに、その…」 「セックスのこと?」 「!!あ、あぁ…」 ちょっと、顔赤くなってる?どうやら私の口から“セックス”って言葉が出たことが相当衝撃だったらしい。浮気をする様な女なんだからそんな単語余裕で言うわよ。と言うか、こんな女でなくたって言うわよ、セックス。 なんだ、そんなことだったのか。あんな真剣な表情で「話がある」何て言うから何かと思ったら、何て単純なことだっただろうか。 「別に気にしてないわよ。と言うより、その件だったら私が謝るべきじゃない?だって、恋人を待っていた男を誘惑したんだし」 「それは…!いや、しかし!」 「こんな最低女に謝る必要無いわよ」 真面目。それとも、こうして会う為の口実?…とてもそうは見えないわね。今だに顔真っ赤だし。 微妙な空気が漂い始めた。あぁ、別に何でもない相手とこういう雰囲気を作るのは、正直勘弁だ。用件も済んだ様だし、このままさよならってのも良い。いいえ、むしろ、それが良い。なのに、私の口から出た言葉は別だった。 「どう?気分を変えにここを出ない?」 「え?」 「あ、勿論貴方の都合が良ければ、だけど。それとも恋人が家で待っているとか?」 何故か、彼を前にすると思っていることとは別の行動ばかりする。言ってから自分で、何を言っているんだろうと後悔した。言ってしまった以上、取り消すことが出来ないから彼から断りの返事を求めたのに、彼の返答は“イェス”だった。 むしろ求めてしまっている (これはきっと何かの間違い)(彼のことは何とも思っていない。一夜限りの関係)(あぁ、やっぱり私は最低最悪、酷い女だ) Title/Back |