リミットオーバー | ナノ


企画が本格的タートをして一週間。既に何人かの人は私が立案した企画に賛成していたみたいで、私が予定していた一から十の作業の二割は始まる前から出来ていた。おかげで、多少負担は無くなった。
とは言え、ここまで大きな企画を担当するのはことは初めてで、戸惑いは大きい。けど、今はそれ以上にやりがいを感じていた。

恋人からはあれから連絡はない。正直、もしかしたらって思っていたけど、今日まで連絡が来ない所を見ると完全に見限られたらしい。けど、それはもうどうでも良く感じていた。

「じゃあ、あとはお願いね。私、明日の広告会議の準備をしなくちゃいけないから」
「判りました」
「何かあったら、連絡頂戴。それじゃ、お先に」
「お疲れ様です」

明日の会議に必要な資料をいつくかと、それとは別のデータの入ったUSBを鞄にしまい、私は退社した。

帰る途中、あの公園の中を横切った。別に通らなくても良いけど、こっちの方が少しだけし近道で、今日はなるべく早く帰って明日の準備をしたい。だから通った。

「…、」

噴水前のベンチ。そんなつもりはなかったのに、何故か足が止まって、そこを見てしまった。キースはその後、彼女とは会えたのだろうか。
あれだけの人を放っておく女性なんてまずいない筈。なんて、たった一回一夜を共にした人間に言われたくはないか。


「君は酷い女性なんかではない。優しく、何より魅力的だ」


あれは酒の場での、ただのリップサービス。
なのに、どうしてこんなに私の心臓は跳ね上がっているのだろう。もう、青春を謳歌した高校生でもないし、大人としての経験が少ない大学生でもない。だから割り切る関係だって、その場だけの関係だって理解しているのに。







「うわぁ、スゴ…」

シュテルンビルトの中でも指折りの大企業なのは判っているけど、目の前にするとその規模の大きさに圧巻した。
約束の時間の十分前。まずまずの時間だろう。朝と、ここへ来る途中、今日の会議の内容は資料を確認した。大企業の会議に参加というのは多少心配だけど大丈夫、私はやれる。

「…!、キース…?」

今、彼の姿が見えたような。もしかして、彼はここの社員だったとか?
いえ、結構距離があったし見間違い。私はどれだけ未練があるのだろう。ホント恥ずかしい。
割り切りなさい、ファースト・ファミリー。あれはあの時だけの関係。恋愛とか、そういうのはナシ。何より、今はこの企画のことを考えなさい。







「それでは、よろしくお願いします」
「こちらこそ。必ず成功させましょう」
「はい」

思った以上に会議は長引いてしまった。けど、その分の手応えはしっかりあった。企画での主な宣伝方法、デザインの大まかな構成。一週間、しっかりと準備した甲斐があって本当に良かった。会社を出たら思いっきりガッツポーズしてやる!
社員の人にエントランスまで見送られ、ポセイドンラインを出て入り口が見えなくなった所まで来ると、思い切り両手を上げて喜んだ。人生で一番この仕事を続けて来て良かったって感じる。

「って、いけない。会社に報告…」



「ファースト!」


きっと次にあえたら

(いくら嬉しいからといってこれは無いでしょう?)(あぁ、どうやら私の眼は馬鹿になってしまったらしい)



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