リミットオーバー | ナノ


目が覚めると、知らない天井があった。隣から聞こえる寝息、振り向けば金髪に端正な顔。
近くに時計がないから時間ははっきりしないけど、窓からの景色から察するに、まだ早朝。普通なら、もうひと眠り出来そうな時間。私はそっと、出来る限り隣が起きないよう注意を払いながらベッドから降りる。

多少は隠すものが欲しかったけど、見つからないから裸のまま散らばった衣類から自分の物を探しだした。下着に、シャツ、スカート。チラッと彼を見れば、まだ眠っていた。まるで子供のように穏やかな寝顔に、自然と口元が緩んだのが判った。

「ほらね、やっぱり私は最低な女だったでしょ?」

囁く程度の声だった。眠ったままの彼には聞こえない。それで良かった。どうせたった一夜限りの関係だし。彼には、私なんかよりもっと素敵な女性がお似合いだと思う(この場合、別に私が彼の恋人になりたいとかそういう意味ではなく)。

テーブルの上に置いてある花束はまだ綺麗に咲いていた。あの時は、気にも留めなかったけど、ちゃんとメッセージカードがついている。失礼だと思ったけど、そのメッセージを読んだ。昨日待っていたであろう、女性に向けてのメッセージ。そこに込められた思いを読むと、自分がしたことが本当に愚かに感じた。

「こんな素敵な人に愛されているのに、彼女は何処へ行ったのかしらね?」

私は静かに彼の部屋を出て行った。二度とこの部屋来ることはないだろう―――







「おはようございます」

今朝のことは完全にリセット―――に至るまでにはまだ時間が足りなくて、私はフラれた恋人のこと、一夜を共にした彼のことを思い出していた。
とはいえ、記憶に思い浸っているほど暇な職場でも、役職でもない私は、朝から企画書やら、報告書やらに囲まれそれらを処理をする傍ら、後輩に指示を出していた。

「ファミリー君、少しいいかね?」
「はい、何でしょう?」
「君が先日出した企画についてなんだが、正式に進めることに決まったよ」
「本当ですか!有り難うございます!」
「なに、君の頑張りが良かったからだよ。上もかなり乗り気でね。これが上手くいけば、君にとってもかなり点数になるだろう」

最近、最悪なことばかりが続いていただけに、この知らせは嬉しかった。ここが職場でなければ、きっと飛び跳ねていたに違いない。
私が勤めているのは、音楽関係の会社で、数多くの人気アーティストと契約している。もっとも、一番人気のブルーローズとは契約していない(というより出来ない)。

「そこで、この企画を成功させる為に宣伝を大々的に行おうと思っていてね。今回、この企画の立案者である君には企画リーダーと合わせて広報をお願いしたい」
「広報、ですか?」
「あぁ。その後方の一つにポセイドンラインにお願いを出しておいた」
「ポセイドンラインって、あのポセイドンラインですか?」

ポセイドンラインはシュテルンビルトの七大企業の一つで、私が勤める会社はその傘下に置かれている。
まさか、初めて通った企画がここまで大々的に行われるなんて思わなかった。緊張からか、嬉しさからか身体が震えた。

「来週、君にはポセイドンラインに行って貰って広告の会議に出てもらいたい」
「来週ですか?」
「何か予定が入っているのかい?」
「いえ。ただ、随分早い気がして…」
「デザインなどはまだ少し先だろうが、今回の企画は念入りにとのお達しが来ていてね」

「頼んだよ」よ上司は私の肩を叩いて、持ち場に戻る様に告げた。
デスクに戻れば、隣に座っている後輩から「やりましたね!」と声をかけられた。それに対して私は返事をしたけど、果たしてどんな表情で言っていたかは判らない。


そうさ笑って笑って

(どうやら、神様という存在はまだ私みたいな人間でも救ってくれる優しさがあるらしい)



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