リミットオーバー | ナノ


「ジョン、見た?スカイハイ今日凄いポイント取ってたわね!」

引っ越しをしたあの日から月日が随分たった。私はジョンと二人で今の今まで生中継されていた『HERO TV』を見ていた。勿論、応援するのはスカイハイ。

キースの正体はスカイハイだった。引っ越しをしたあの日、急用で出て行った彼が帰って来て、開口一番に言われたのがこれ。言葉の意味にすぐには頭が追いついてこなくて、理解するのに数秒かかり、更にそのことに驚いて大声をあげたことは今でも覚えている。

「あ、いけない。夕食の準備すっかり忘れてた」

中継に夢中になってしまい、時計を見ればとっくに夕食時を過ぎていた。今から何か作ると時間がかかりそうだし、今日はピザでも注文して済ますことにしよう。注文をしてすぐ、携帯に着信がかかった。画面に表示された名前に、自然と心が弾んだ。

「お疲れ様。もう帰って来るのかしら?」
『あぁ、もう暫くしたら着くよ』
「判った。そうだ、ごめんなさい。今日の夕食なんだけど、ピザでも良い?」
『構わないよ。…ファースト』
「何?」
『今日、…君に大事な話があるんだ』

急にトーンの下がる声を不信に感じた。「今じゃ駄目なの?」そう訊ねれば、『会って直接話したい』そうキースが言うものだからそれ以上聞けなくて、私は通話を切った。
夕食はピザと言うお粗末なものになってしまったけど、今日の活躍はお祝いしたいし、ワインでも用意しよう。あ、折角だから簡単なものも一緒に作っても良いかもしれない。

「(それにしても、一体何だろう…)」

キースが言った“大事な話”それが気になって仕方がない。と言っても、私がそれを知ることなど無理なのは承知のことだし、今は黙って待つことにしよう。
ジョンに夕食を用意して、すぐ注文したピザが届いた。キースはまだ戻って来ていなかったから、私はピザをテーブルの中央に置いて彼を待った。

「…ジョン?どうしたの?」

急にジョンがバルコニーの方を向いて吼えていた。普段、そんなことをしないから不思議に思ってバルコニーへ向かう。カーテンがしてあって窓の外は見えないけど、音が聞こえる。でも、この部屋マンションの―――

もしかしたら、NEXT能力者の強盗かもしれない。ここはキースに連絡すべきなのか、カーテンの向こう側に何が待ち構えているのか判らないまま数秒、私がそこで立ち尽くしているとカーテン―――正確には窓の向こう側から声が聞こえた。

「ファースト!開けてくれ!」
「!…キース!?」

慌ててカーテンを開け窓越しに外を見ると、スカイハイ―――キースがいた。ヒーロースーツのままのキースに、私は慌てて窓を開けてバルコニーへと出た。

「ちょっと、その格好…誰かに見られたら!」
「ファースト、大事な話があるんだ!」

私の声を遮り、彼はヘルメットを外すと真っ直ぐ私を見つめていた。いつかの様な真剣な眼差しに、私も言葉を失った。地上十数メートル上のバルコニーにいる私の前に、キースは彼の能力である風を操り、まるで私と同じ様にバルコニーに立っているかのごとく空中に浮かんでいた。


愛しいものが一つある



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