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ファーストは私と約束してここへ来るのだと思っていた。しかし、彼女が今会って話をしているのは、私ではなくあの日彼女と一緒にいた男。 ファーストが何か話しているのは判ったが、距離があるのと噴水の音で内容は聞き取れない。けど、その肩が微かに震えているのだけは判った。 この場にいて良いのか判らない。約束の時間より早く来たのが、こんな結果になるなんて思ってもみなかった。 結局、ファーストは彼を選んだということなのだろうか。なら、私が呼ばれた理由は?最悪の結末が脳裏を過った時、今まで感じたことの無い痛みを胸に感じた。 「…私には、…がいる」 微かに聞こえ始めたファーストの声。聞いて良いものかと、咎められそうだが、そんなこと知ったことではない。夕暮れ時の雑踏の音、真横で流れ落ちる噴水の音の中からファーストの声だけを聞きとる。 「私は今そんな彼を失望させてしまっている。考えてみれば、彼には私なんかよりもっと素敵な女性がいるかもしれない」 何を話しているのだろう。徐々にはっきりとし始めたファーストの声と比例して、自分の心臓が早鐘を打ち、その音はファーストの声さえ掻き消そうとするくらいだった。 「でも、それでも、私は彼がキースが好きで愛しているのッ!」 しかし、その声はどんな雑踏音や、水の音、一番近くで鳴り続ける心音よりも大きく、はっきりと聞こえた。 それからすぐに、男はその場を立ち去った。ファーストは姿が見えなくなるまで男を見送り、それを終えると大きく息を吸ってこちらを確実に見た。 「キース」 彼女に呼ばれて、一段と速くなる心音。 * キースの許へと一歩一歩足を進める。思えば、初めて会った時も、近づいてきたのは私の方からだった、と今思い出した。同じ場所なのに、あの時とは違う景色に感じた。気持ちも、こんなに緊張していなかった。 「私は、最低な女」 まだ距離はあった。でも、言いたいことがたくさんあって、先に言葉を発してしまった。止めるなんて気持ちは全くない。どっちにしたって言うことなんだし、こんな状態になってプランなんて関係なくなってしまったんだから。 「ちょっとしたことで挫けて、すぐそれを異性に求めてしまう。その所為で、何回か恋愛は失敗している。気付いた時には、もうやり直すことが出来なくなった状態」 キースは、何も言わないで私を見つめたまま。でも、それで良かった。今、途中で言葉を遮られたら、きっと何も言えなくなりそうだった。どんな結果で終わっても構わないから、思っている全てをキースに言いたい。 「でも、これだけはッ!これだけは失いたくないの!こんな風に思ったのは初めてだった…。こんなに苦しくなるのも、人を好きなったのも、ッ」 また声が震え始める。おまけに、涙まで出来始めて、前が霞み始めた。出来もしないのは判っていたけど、涙が零れないよう必死に耐えた。 「私は最低な女。貴方みたい、な素敵な人は勿体ないくらいの存在。で、もッ」 キースがこちらへ歩いて来るのが見えた。止められてしまう前に、言わなきゃ――― 「キースじゃなきゃ嫌なの!他の人なんて嫌!他の人に貴方がとられるのも嫌!私はッわた、しは貴方を愛しているの!だからッ」 結局、最後の言葉はキースの胸の中に頭を埋められて、上手くは言えなかった。 あぁ、この体温を私はずっと待っていたんだ。今だけであってもそれでも良い。ずっと待ち望んだそれを感じた瞬間、ずっと堪えていた涙は堰を切って私の瞳から零れ出した。 リミットオーバー (愛してる。貴方を他の誰よりも) (愛してる。二度と私の傍から離さない) ((愛している。思いは限界を超えた―――)) Title/Back |