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「ファーストは後悔している。あなたのことをまだ愛しているし、忘れていない。でも、そんなこと言える立場じゃないからって」 もし、私とミラの間にテーブルと言う隔てが無ければ、彼女はきっと私の腕を掴んで訴えてきそうだった。親友とはいえ、これほどまでに心配されているファーストは、本人が言う様な“最低な女”ではないのだと思う。 「私はファーストとの付き合いは結構長い。だから判るの、あなたと付き合っている時が一番幸せそうだった」 「…私は、」 「こんなこと言われて迷惑なのは判っている。でも…いえ、」 それまで懸命に話していたミラの言葉が止まった。「やっぱり、ごめんなさい」次に出た言葉はそれだった。 「今日のことは忘れて。時間とってしまって本当にすみません」 「いや、…」 「ここの支払いは私がしますから」 彼女は荷物をまとめて立ち上がり、伝票をとり会計を済ますと出て行ってしまった。私は何も出来ないまま、ミラが出て行くのを見つめているだけだった。 彼女の言葉に対し、何も言えなかった。自分の中に残るファーストへの気持ち。 判らなかった。あの日のことは忘れもしない。ただ、そこに生れた感情が何だったのか、判らなかった。 ファーストが私ではない別の男とキスをしているのを見て、傷ついた?嫌悪した?それとも――― 結局その答えが判らないまま、偶然ファーストと再会をした。 自分から探すと見つからないのに、意識せずにいると不意打ちで現れる。 二週間振りの彼女は、少し痩せた様な気がした。答えの出ないままの私は何を話して良いのか判らない。何とか口に出した言葉は、ファーストに動揺が伝わっていないかと不安だった。 ファーストはあの日と同じだった。揺れる瞳で私を見つめ、決まっているようなセリフを告げる。このままでいけば、また彼女が一方的に別れを告げて、私の前から去ってしまうだろう。 駄目だ――― 気付けば私は走り出していた。少し前に私の前から去っていったファーストを追う為に。 頭が整理していなくたって、身体が本能的に判っていた。私にはファーストが必要で、ファーストをまだ愛しているんだと。 * キースから突然の告白を受けてすぐ、私は彼と別れた。てっきり、私が何か言うまで話してくれないのかと思ったけど、彼は驚くほどあっさりと私の腕を放した。「私の気持ちだけは知っていて欲しい」とそれだけを告げて。 「おっそーい。夕食用意してくれるって言うから、何もしないで待っていたのに!」 「…ごめん、」 「何?どうかした?」 「へ?…あ、いえ、その、…何でもない」 ミラは既に家に帰っていて、開口一番に夕食について怒られた。動揺しているのがまる判りな気がしたけど、ミラは(珍しいことに)それ以上言及はしてこなかった。慌てて夕食の準備をするけど、頭の中はさっき起きたことでいっぱいだった。 自分が悪いのは充分判っている。だから、どんなに思いがあったとしても、それを抑え込む様にした。なのに、その決意を簡単に覆すような言葉を言われた。 キースの気持ちは素直に嬉しかった。でも、それで本当に良いのか判らない。あのまま、また彼の言葉を素直に受け入れて、それで――― 簡単な道はあるけれど (それを素直に選べない)(選べるなら、きっとこんな思いはしていないんでしょうね) Title/Back |