シュテルンビルトのとある公園のとあるベンチ。午後の四時から私はここにいる。現在の時間は午後の五時半。 一時間半もの間、私はこのベンチから動くことなくずっと座り続けている。理由は簡単。ある人を待っている。 来るかは不明。どちらかと言えば、来ない方が確実に可能性としては高い。もとはと言えば、私が悪い訳だし… 「(……あら?)」 夕暮れ時、向かいのベンチに一人の男性が座った。向かいと言っても、そこそこに距離があるから私が見ていることなんて気づいていないんだろうな。彼は両手いっぱいの花束を持って、座っている。おそらくプレゼント。人が座れる分のスペースを隣に開けて、ソワソワとその空いたスペースを見ている。 「(幸せそうね。今の私とは正反対…)」 私がここに座って、もうすぐ三時間が経とうとしていた――― * 私がここに座り始めてから、空の色はすっかり変わってしまった。公園にいる人の数もだいぶ減った。それでも私がこの場所から動けないのは、現実に目を逸らしているから。あと、未練が残っているから? でも、さすがに時間も遅い。時計を見れば、日付が変わるまであと数十分。いくら現実を受け入れることが出来ないとしても、時間が時間だし、帰ろうかと俯いていた顔を上げると、ふと向かい側に人影が見えた。 「あの人、確か…」 花束を持った男性がそこには座っていた。てっきり、もう思い人と一緒にここを立ち去ったものだとばかり思っていただけに、その姿を見かけた時は驚いた。 その姿はここに来たばかりに比べ、心なしか肩も落ちて背も丸まっている様な気がする。様子から何となく察しはついた。 そのまま自宅へ帰るつもりだった。漸く、決心(いや、これは諦めかもしれない)がついて立ち上がった足は一歩一歩と前へ、向かいのベンチへと進んで行った。帰るつもりだった。帰って、独り自棄酒だって思ってた。でも、足は私の考えとは全く違う方向へと進んで行く。 「…こんばんは」 「!?……こん、ばんは」 気づけば、私は向かいのベンチに座る男性の前に立っていて、声をかけていた。彼は私が声をかけると、俯かせていた顔を上げてこちらを見た。上げてすぐは、嬉しそうな、まるで子供のように瞳を輝かせていたけど、声の主が私だと判ると途端、その表情は消えた。当然と言えば、当然。彼からしてみれば、待ちわびた人間ではなく、見ず知らずの女が突然声をかけてきたのだから。 「突然、ごめんなさい。隣、良いかしら?」 「え?…あぁ、いや、しかし…」 「大丈夫、彼女が来たらいなくなるから」 私の言葉に驚きながらも、彼は結局私が隣に座ることを許してくれた。 さて、勢いのままこんな事をしてしまったけど、どうしましょう。彼は相変わらず、突如現れた私の対処に困っている様子だった。 深夜0時の真ん中で (よく見れば、綺麗な目をした素敵な男性だった)(あぁ、また私の駄目な部分が出始めた…) Title/Back |