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買い物をした後で、荷物が多かったから走ることは出来なかった。でも、早歩きで少しでも遠くにと思っていた。 なのに、振り向くとすぐ傍にキースがいて、私の腕を掴んでいて、逃れることを許さないくらい真っ直ぐな視線を私に向けていた。 * 「ファーストは今私の家に泊っているの。自宅に帰ればあなたが来るんじゃないかって思ってね」 待ち合わせ場所に指定されたレストランで、ファーストの親友ミラと話していた。彼女はここ数日のファーストのことを簡単に話してくれた。おかげで、自宅へ訪ねてもいない理由が判った。 「それでね、あなたを呼んだのは聞きたいことがあって」 ファーストは今日、私と彼女が会うことは知らない。ミラは最初、「今日のことはファーストには秘密で」と告げられた。もっとも、今の私はファーストと連絡をつける手段がない為、告げる方法もない。 「単刀直入に言って、キースさん。あなた、ファーストのことまだ愛している?」 「え?…」 「ファーストがしたことは判っているから、嫌いだって言われても仕方の無いことだって思う。でも、もし少しでもファーストのことが好きで、彼女のことを許せる気持ちがあるならお願い…ファーストにチャンスを与えてあげて」 * 「何…?」 早鐘を打つ心臓と、震える声は私のもの。キースは私の腕を掴んだまま、放そうとはしてくれない。 何を言われるのだろうか。私には理由はあったし、言われても仕方の無いことだと思う。何を言われても構わない。キースの気がそれで済むのなら。私はいくら彼から咎められ、非難され、罵声を浴びせられても構わない。 それだけのことをした自覚があった。 「ファースト…」 彼の口がゆっくりと開き、声を出す。覚悟出来ている。どんな言葉でも受け入れる。それに、もしかしたら彼の口から言ってもらえれば、この残った気持ちも少しは早く消えるかもしれない。 「どういう経緯であれ、君のしたことは許されるものではない」 「…えぇ」 「あの日、私は傷ついた。とても深い傷だ」 「…えぇ」 「しかし、…私は君を嫌いにはならない」 「…え?」 何を言っているのか、理解出来なかった。始めの頃は、予想した通りの言葉が並べられ、その度に胸が苦しかった。なのに、今言った言葉は一体何だったのか。キースの方を見れば、彼は始めと変わらず、まっすぐな瞳で私を見つめている。とても嘘や、冗談を言っている風には見えなかった。 「少なからず、私にも原因があったのだと思う。君に寂しい思いをさせてしまった」 「何言って、そんなの関係な」 「私はまだ、ファーストを愛している」 真っ直ぐに向けられた視線と言葉。途中まで出ていた私の言葉を遮り、キースが告げた言葉は、私を動揺させるには充分過ぎた。心臓が煩い。身体がどんどん熱くなっていくのを感じた。 「この関係が終わったなんて思っていない」 愛してる。信じられないくらいに (どうすれば、君にこの気持ちが伝わるのだろうか) (違う。こんなの、違う)(私が、求めていた言葉はこんなんじゃない) (嘘、本当は―――) Title/Back |