リミットオーバー | ナノ


付き合った人の人数は、人並みより少しは多いと思う。付き合った人の数だけ、別れた人もそれに比例する訳で、こうして街を歩けば、偶然会うことだってある。対応の仕方は…判っている。

「元気そうで、良かったよ」
「貴方も」

どうして、キース相手だと出来ないのだろう。全部そう。他の人相手だったら、ずっと出来ていたことがキースにだけは出来ない。辛うじて交わす会話は、あまりにもぎこちなくて不自然。上手く笑えているかも、正直判らなくて。

「その、…連絡がつかなくなって、あ!いや、良いんだ…」
「それなら、実は携帯壊れちゃって。新しいの買ったの」
「そう、だったのか」

それなら「じゃあ、新しい番号とアドレス教えて」とはいかず、会話はそこで終わった。彼は本当に携帯が壊れたなんて、信用しているのだろうか。もしかしたら、何度か家に訪ねているのかもしれない。あの日以来帰っていない私の家へ。

でも、それもこれも今となっては終わったこと。きっとこの感情も、もしかしたらキースの中にも残っている感情も、時間が経てばいずれ無くなっていく。私自身の意志では、どうすることの出来ないものもきっと、時間がどうにかしてくれる。そう信じたかった。

「、それじゃ―――」
「ファーストッ」

彼の横を通り過ぎようとして、呼び止められた。反射的に立ち止まり、振り向くとキースの顔がすぐ近くにあった。最後に会った時でさえ、こんな距離ではなかった。久々に見た彼の顔は、相変わらず端正で、魅力的で、引き寄せられそうになる。

「…何?」
「あ、……いや、何でも。すまない」
「……」

キースは何かを言いたそうに口を開いたけど、結局その口から言葉が発せられることは無かった。私は止めた足を再び動かし、そこを去った。普段歩くよりも少し早い速度で、出来る限り彼から早く離れようと。

見つめ合ったのは、時間に換算すればほんの数秒。でも、私にはとてつもなく長いものに感じた。心臓は早い速度で脈打っていた。

早く、彼のことを忘れよう。でないと、―――




「ファーストッ!」







ファーストが別れを告げ、二週間が経った。しかし、あの日の出来事は、ついさっき起きたことの様に覚えている。
あの時は何が起きたのか判らなく、そしてファーストにほぼ一方的な形で、私との関係に終わりを告げられた。その理由を、あの時のことを聞きたいのに、ファーストと連絡が全くつかなくなってしまった。

「あなたがキースさん?来てくれて有り難う」

連絡がつかなくなったその日、自宅へ訪ねたがファーストは帰って来なかった。その後も何度か尋ねたが、帰って来ることはなかった。ファーストとのコンタクトの手段を失い、もう彼女と会うことが出来なくなったと思った矢先、知らない番号から電話がかかってきた。

「改めまして。私はミラ。ファーストとは、腐れ縁みたいな関係ね」

ファーストかと思って出た相手は、知らない女性の声だった。私は今、その女性と会っている。


あの人が消えないの

(消えて、消えて)(これ以上私を苦しめないで)

(君への想いは簡単に消せるものではない)




Title/Back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -